肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「六古窯展 感想」出光美術館

 

東京、有楽町の出光美術館で開催している「六古窯展」が地味で素朴で力強い見どころが多い内容でかんたんしました。

こういう展示、好きです。

 

idemitsu-museum.or.jp

 

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六古窯……中世から瀬戸、常滑、越前、信楽丹波備前で制作されてきたやきものはファンが多いことで知られています。

 

昔から出光美術館は好きですし、備前焼も好きなので足を運んでみたのですが、これが実に充実した展覧会で行ってよかった、満足度高かったですよ。

 

六古窯のやきものや、六古窯ゆかりの茶器や唐物を紹介していただける、実に茶色い展示物の数々。

 

 

さっそく、私のお気に入りを展示テーマごとにひとつずつ取り上げますと……

 

第一章 中世陶器の系譜――瓷器系・須恵器系・土師器系

⇒2.双耳壺(日本 越前窯 室町時代 高40.3 福井県陶芸館)

 

オフィシャルHPにも載っている大ぶりの壺です。

見どころは釉薬が白色、青紫色に変化した上で、どうやら壺が窯の中であっちに倒れたりこっちに倒れたりしたらしく、釉薬もダイナミックにあっちに流れたりこっちに流れたりしている景色。

静態の壺からいかんなく放たれるダイナミズムに誰もがときめくこと間違いなしです。

 

 

第二章 六古窯と中世諸窯

⇒32.四耳壺(日本 珠洲窯 室町時代 高37.1 出光美術館

 

しっかりと焼きしめられた灰色の壺に、黄色がかった乳白色の自然釉がはらはらとかかっている逸品です。

北陸生まれの壺ということもあって、凍てついた大地に粉雪が降り注ぐ場景なんかを想像してしまいますね。

 

 

【特集①】中世のひとびとの<こころ>

⇒44.銅製布薩形水瓶(日本 鎌倉時代 高27.2 出光美術館

 

「布薩」という仏教修行で使用される水瓶です。

黒飴のような色艶、カシっと緊張感のある佇まいよきフォルムで、高い精神性を感じずにはいられません。

 

 

【特集②】おおきいやきもの

⇒53.大壺(日本 丹波窯 室町時代 高41.6 出光美術館

 

オフィシャルHPでも見れる大壺です。

人柄のよさそうな大ぶりの茶色い壺に丹波特有の薄緑色の釉がかかっているのですが、この緑釉と茶肌の境が、大地が苔むしたような風情があってとてもいいんです。

年季を経た相棒感があって、こんな大壺が屋敷にあったらいいだろうなあと思います。

 

 

第三章 中世陶器の系譜から発展した茶陶

⇒56.筒茶碗(日本 信楽窯 桃山時代 径11.4 出光美術館

 

これもオフィシャルHPに載っていました。

赤い地肌に、黄緑の釉薬がかかっているお茶碗です。

中を覗き込むと、見込みの部分が赤み混じりの黄色にきらきら輝いていて、まるで天気のよい日の古刹の池のような印象を抱きます。

古刹の池、なんていうとお茶がおいしそうに見えないかもしれませんが笑。

 

 

【特集③】茶入

⇒78.瀬戸尻張茶入 銘 猿若(日本 瀬戸窯 江戸時代 高7.2 出光美術館

 

基本は飴色の茶入なんですが、一本、黒色に変化した釉薬が上から下にスッと流れているのが特徴です。

侘び寂び的には癖が強いとみなされるかもしれませんが、モダンな美しさがあって私はとても好きです。

 

 

第四章 中世の人々が好んだ唐物

⇒98.青磁鎬紋盤(中国 龍泉窯 元時代 高45.8 出光美術館

 

一転して青磁、青緑色のアイテムが並ぶコーナーです。

この鎬紋が入った青磁大皿は均整の取れた出来ばえで、非常に使い勝手よさそうなのが印象的でした。

青磁の大皿というと家庭では何を盛り付けるのかちょっと考えてしまいますが、中世の人なら鯛や伊勢海老をドーンと盛り付けたらまさしく主菜感があって重宝したことでしょうね。

 

 

第五章 後世の眼が見た中世のやきもの

⇒103.大壺 銘 猩々(日本 丹波窯 鎌倉時代 高55.0 兵庫陶芸美術館

 

この大壺、直近では土門拳さんのコレクションだったそうです。

全体にボコッボコッと瘤(空気が入って膨れたっぽい)が飛び出ているのが特徴で、見ているだけで元気が出そうなパワー系のやきものです。

この展覧会、日本独特の素朴でちょっと歪んだり曲がったり石や砂がひっついたりしているやきものを散々見てきた最後に、この得体のしれない大壺でシメましょうという構成が素晴らしい。

 

隣の「御所柿」という大壺も同じくよかったです。

 

 

 

 

以上、出光美術館の六古窯展でした。

 

10連休中でしたが混雑もしておらず、まったりと好きな壺を見れて最高でした。

北陸系のやきものへの関心が高まったり、すり鉢の魅力を再認識できたりと、個人的な収穫も多くて大満足です。

 

いろんな美しさが咲き乱れる現代において、こうしたジャンルの美しさもしっとり認められていきますように。

 

 

 

 

大阪市北区堂山町「炭割烹 誉はマジでおすすめ」

 

さいきん連れていっていただいた「誉」という割烹の料理がマジでおいしくてかんたんしました。

あんまり個人店のことは書かないつもりなのですが、このお店については力強く推したくなったのであります。

 

restaurant.ikyu.com

  

 

 

 

個室もありますが、割烹ですのでカウンター中心のお店です。

 

 

コースにもよりますが、私が特に推したいのはお造り。

 

白身、熟成キンキ、イカなどの身質がよいのはもちろんなのですが……

 

まず、驚くほどに醤油がうまい。

詳しいつくり方はよく分かりませんが、市販の醤油をそのまま使っているのではなく、調味料や野菜?等をブレンドしたり寝かせたりしているっぽいです。

イカなんかは淡泊ですからね、醤油の値打ちがよく分かりますし、醤油がうまければお造りもまたレベルが何段も上がろうというものなんですよ。

 

 

続けて、同じくお造りでもう一皿、「燻製の創り」が凄い

 

口で説明するのは難しいのですが、タタキや焼霜を更に洗練させたような料理でして。

お造りの皿の上に、ガラスのビーカーみたいな蓋をして密閉して、そこに藁を燻した煙を吹き込んで、砂時計でしばし待つという。

 

私が食べたときはカツオでしたが、生のお造り特有の色っぽい口当たりはそのままで、燻製のような奥深い香ばしさを伴った味がね、そりゃね、んっごいわこれ、ワオ!的な感動でしたよ。

 

 

 

お造りの後に出てくる焼き物や温物ももちろんおいしかったです。

 

個人的には、焼いた鯛の上に有馬山椒を混ぜた大根おろしを添えているのがとても気に入りました。

 

 

一つひとつのお皿に、確かに感じる店主さんの手間やお心配り。

和食、割烹に期待する季節感や清浄や正統性を高い水準で備えながら、斬新で、独創的で、ワクワクさせてくれるような感性を併せ持ってはるという。

 

店主さんは朗らかでお話しやすい方だし、置いてはるお酒もおいしいし当然お料理に合うし、いい気分だなあ、いいお店だなあ、知ることができてよかったなあと。

本当にかんたんいたしました。

 

あんまり値段のことを言うのはアレなんですが、この値段でこの内容だったらすこぶる割がいいと思いますし。

 

 

 

 

そういう訳で強くおすすめですし自分も時々行こうと思っているのですが、一点だけご留意いただきたいポイントを。

 

お店の場所が梅田の東、堂山町ですので。

 

周辺はラブホ、風俗、BLガチ勢、ニューハーフバー等々……

 

なかなかに魔性あふれる地域なのは否めません。

老婆心ながら、初デートには向かないと思われます。

お店に向かう途中のピンク色の看板の数々に「えっ、えっ……?」となること間違いなしです。そうなったら落ち着いて料理も楽しめないですからね。

 

友人とであれデートであれ、腹の座った関係になってから行きましょう。

 

 

 

誉さんがますます多くの人に愛され、評価されるお店になっていかはりますように。(予約は取れる程度に)

 

 

大阪府高槻市「霊松寺と三好義興墓(カンカン石)」&「芥川商店街 肉のマルヨシのコロッケ」

 

久しぶりに高槻に行ったので、霊松寺の三好義興さん墓に立ち寄ってみました。

多くの人は訪れておりませんでしたが静かな墓所で雰囲気がよくかんたんしましたし、帰り道に芥川商店街(サンロード芥川)で買い食いしたコロッケがやたら美味しくて、満足度の高い散歩でありました。

 

 

 

霊松寺はJRの高槻駅から10分弱歩いたところにあります。

バスでも行けますが、歩いた方が早いくらいの距離感です。

 

 

参道。若干ひるむ傾斜です。

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正親町天皇勅願寺であることを示す石碑。

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践祚直後に勅願寺とされたようですので、やっぱり三好家への配慮なんですかね。

 

 

 

いいことを言ってはる掲示板。

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お寺のこういうメッセージ掲示板、なんか好きです。

 

 

 

坂を登ったところ。

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ご由緒。

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黄金の胎内仏伝説とくれば、ギャラリーフェイクの名作「消えた黄金仏」を思い出さずにはいられませんね。

 

 

 

境内の様子。

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昨年の台風のためか、全面的に修復工事中でございました。

それにもかかわらず清閑な雰囲気を保っておられるのは、お寺の方々の心がけがよほど素晴らしいのでしょう。

 

しっかし高槻もタワーマンション増えましたねーー。

梅田にも京都にも近くて便利ですもんね。

 

 

 

続いて三好義興さんのお墓。

境内から出て、道を挟んで北側(駅の反対側)の墓地にあります。

 

バス停「下天神」

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の手前にある白い戸口

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から入ると分かりやすいですよ。

 

 

 

お墓のご様子。

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静かに眠れそうな環境で、とてもよいお墓だと思います。

墓石がカンカン石と呼ばれていて、叩くとカンカン鳴るそうですが、あまりカンカン感はないように感じました。

ていうか墓石をカンカン鳴るほど叩いてはいけないと思うんですが、昔の人は墓石を叩く習慣でもあったんでしょうか。8ビートで叩くと故人が喜ぶぞ、みたいなん。

 

 

お墓の近くには三好長慶さんの紹介看板もあります。

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三好一族はマイナーなのでとりあえず長慶さんを紹介しているんでしょうけど、いずれは三好義興さんを紹介する看板もできてほしいものです。

若年で亡くなった割には、足利義輝さんとの金閣寺デートや御成、対六角畠山の合戦での活躍等、事績が豊富ですし、そんな彼が急逝してしもたらそらアカンわ皆ショックやわが伝わっていい(悲しい)看板になると思うんですよね。

 

 

 

 

帰りに、芥川商店街(サンロード芥川)にも立ち寄ってみました。

 

 

商店街を入ったところに「m's meat 肉のマルヨシ 芥川店」という肉屋さんがあるのですが、ピンと来て買い食いしたコロッケ(80円)がめっぽう美味しかったです。

飾り気はないけど確かな仕事を感じられる実力派、という感じで。

 

コロッケをかじりながらの商店街散歩って、楽しいんですよね……。

芥川商店街、和菓子屋さんの店頭で店員さんとお客さんが楽しそうに会話していたり、碁会所にお爺ちゃんたちがニギニギ集まっていたりして、親近感の湧く通りでした。

 

 

商店街の出口(駅の反対側)には芥川宿仇討ちのパネルがあったりも。

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美少年をサムライ二人が取り合っての果し合い、からの仇討ち旅。

主人公は加藤嘉明さんのひ孫14歳……という。

 

昔なんかの小説で取り上げられていた気もするんですが、思い出せません。

気のせいかなあ。

 

 

 

 

以上、高槻は昔も今も栄えていて、散歩するにはとてもいい街ですね。

面白い店が多くて、よく見たら色んな史跡もあって、って素敵やと思うの。

 

台風被害は大変でしたが、引続き復旧が着実に進んでいきますように。

 

 

「大阪府 秋の三好祭 感想(大東市、高槻市、堺市)」 - 肝胆ブログ

 

 

「近鉄中興の祖 佐伯勇の生涯 感想」神崎宣武さん(創元社)

 

近鉄を日本有数の私鉄に押し上げたことで有名な佐伯勇さんに関する本が30年ぶりに復刊されており、現代の視点で読んでもなお興味深い事柄が多くてかんたんしました。

 

www.sogensha.co.jp

 

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佐伯勇さんは近鉄の社長を昭和二十六年から昭和四十八年まで務め、その後も会長として活躍、財界活動等でも名を轟かせたお人であります。

 

近鉄の営業距離を日本最大規模にまで拡げ、沿線開発や旅行業等の事業多角化を進め、関西文化を保持する旦那さんとしても活動。

現代人から見れば人口ボーナスや復興ボーナスが羨ましいとはいえ、その経営手腕に対する評価が揺らぐことはないでしょう。

 

 

そんな佐伯勇さんの足跡を民俗学者さんが執筆してはるというのも本書の特徴です。

民俗学者さんらしい、インタビュー、聞き取りを駆使したルポルタージュになっていますので、エピソードの一つひとつに迫真味があり面白いですよ。

 

しばしば話が著者個人の意見や考察(大阪と東京の気質の違い等)に脱線しますが、それはそれで当著の味になっている気もいたします。

 

 

構成はスタンダードに佐伯勇さんの生まれ育ち~若かりし頃~経営者時代~と進んで参ります。

プロローグののっけから大阪で有名な料亭「太和屋」さんが登場したりするのは土地の人間的に「おおっ」感があっていいですね。

 

 

読んでいて面白くなるのは、やはり近鉄経営に関わり始める中盤以降。

 

佐伯氏が秘書として長年仕えた種田社長("近鉄(社名変更後)”初代社長)とのお話や、関西の中小私鉄を近鉄として再編していくような話は実に興味深い。

秘書時代にのんびりしていたら予定が早く終わった種田社長を寒空の下で長時間待たすことになってしまい厳しく叱られた、後年佐伯氏が社長になった時に同じように秘書の不手際で放置されたときはそのエピソードを語りながら温かく叱った、みたいな話はいかにもサラリーマンドラマ味があって好き。

 

手土産を相手客だけでなく秘書や運転手にも用意した、その渡し方も主客の空気を読んでいて実に見事だった……みたいな佐伯氏の秘書時代の活躍は、気配りのひとつのあり方としてとても参考になります。

 

 

敗戦直後、食糧難にあたっての「近鉄農場」事業へのトライも面白い。

沿線地域の住民と折衝して土地を確保して、農業を始めるも……事業としては生産的にも会計税務的にも失敗、即撤退、それでも近隣住民との距離が縮まったことで後の沿線開発に大いに役立った……という七転び八起きがいいんです。

 

その後、伊勢湾台風を受けて全線がズタズタになった際の、名古屋線軌間拡幅工事をこの際一緒にやっちまおうという話も迫力があります。

佐伯氏自身の回想を読むだけでもう面白いですからね。

とにかく、この機会だから、来年に予定していた全線の広軌へのゲージ統一をやろう。どうせ電車が止まっているのやから、全線の復旧工事は、一挙に広軌にしてやるべし。儂はそう決めた。だから、その方法を考えてくれ。やらんと言う必要はない。どうすればやれるかっちゅうことを考えろ。一週間時間をやるから案をだせ。衣冠束帯は問わん。知恵のある者は知恵をだせ。諸君は何のために月給をもらっているのか、今日あるためにもらっているのではないか、と重役を並べて言ったんや。儂は、もうそのとき、どうやるかっちゅうことを決めていましたけど、自分が案をだしてしまったらみんなが協力できんでしょ。あれは、ちょっとドラマチックやったな。もちろん、芝居なんかしとらん。儂も必死やったんや。それで、一週間目に、みんな案はできたか、ちゅうてみた。いろいろでたが、いちいちその実行案にダメをだし、最終案を儂が一気にまとめたんです。

 

この社長の決断を受けた、当時の現場の工場課長さんの回想も。

私は、言葉は悪いが、現場にいる立場から、内心“しめた”と思いましたよ。線路はズタズタで、電車は動いていないんですからね。つまり、休んでいる電車なら、まとめて工事ができますでしょ。それは、線路工事も同じで、しかも昼間に工事ができるわけですから、安全だし能率も上がるというもんです。

鉄道にとって、いちばん恐いのは、事故です。とくに、電車を走らせながらそのあい間を縫って工事をする。そのときの神経のつかい方は、そりゃあたいへんなもんですよ。もし、台風がこなくて計画どおり翌年二月にあれだけの大工事をしていたとしたら、寒いときでもあるし、事故があったかもしれません。私らは、そういうことが心配になるのです。それが、安全に能率を上げることができたのは、何よりだった、と思っています。

ですから、そういうことがわかって英断を下した佐伯さんは偉い人だなあ、と思ったものです。現場が一丸となってふるいたったのも、そういう気持ちがあったんです

 

 

その他のエピソードでは、奈良電鉄買収後の話が好きです。

吸収合併した元奈良電鉄の社員たちに「君らを継子扱いはせん」と言い切って、給料もポストもきちんと与え、果ては合併後に「奈良電三十年史」まで出版。

今日のM&Aにおいても学びになる気配りではないでしょうか。

 

 

 

最後に、印象に残った佐伯氏のセリフを。

「学者は現実を知らない、経営者は情報を知らない、官僚は両方知っていても喋らない」

 

一見、世の中の話をされているのかもしれませんが、実は近鉄も含めた大企業の中の話なのかもしれないなあ、と思ったり。

大きな組織の中には、学者のような人も官僚のような人もたくさんいますもんね。

色んな人をビューティフルハーモニーさせて経営するというのは実に難しい。その難しさを端的に示しているのでは……などと感じました(私見です)。

 

 

 

時代背景が違うからこそ、往年の名経営者のお話は面白いですね。

渋沢栄一さんも再注目されていますし、また色々学んでみようかという気になってしまいます。

 

温故知新……というと単純に過ぎるかもしれませんが、かつての知恵を今後に繋げることのできる我々でありますように。

 

 

 

「家入レオさんのエッセイが面白い」日経新聞のプロムナード

 

日経新聞夕刊の「プロムナード」という様々な方が日替わりで連載しているエッセイ欄がどれも面白くて好きなのですが、その中でも家入レオさんの文章は、若い時分の繊細な感覚を強く共感させてくれてかんたんいたしました。

 

家入レオさんのエッセイ

r.nikkei.com

 

 

↓プロムナード

www.nikkei.com

 

 

日経新聞は文化面の記事がいいんですよね。

 

このプロムナードも、本日の木ノ下裕一さんの文章、

はじめましての世界 木ノ下裕一 :日本経済新聞

 

ちょっと前の笹公人さんの文章

ゼリー生活 笹公人 :日本経済新聞

 

などはとても印象に残ります。

 

 

 

そして、家入レオさん。

(失礼ながら)若い、歌の上手い方、というくらいの知識しかなかったもので、こんなに個性も共感性も高い文章をお書きになるとは思いもよりませんでした。

才能に加え、きっと日々歌や詞に真摯に向き合ってはるからこそなんでしょう。

 

 

 

家入レオさんのエッセイで気にいったのは、例えば次のような記事たちです。

 

 

多忙と多忙のスキマ、様々なものを得た上でフッと我に返るとき、そんな感覚をよく捉えた文章

(プロムナード)都会のオアシス 家入レオ :日本経済新聞

 

 

都会で活躍している人にとっての、地元との距離感を巧みに描いている文章

(プロムナード)新年の流儀 家入レオ :日本経済新聞

 

 

いい友達ってこういう関係だよね、と思わせてくれる文章

(プロムナード)好ましい彼女 家入レオ :日本経済新聞

 

 

若い頃は、こんなことを考えていた気がする、いや考えていなかったかもしれないけど考えていたんじゃないかという気になる、結婚や性別に関する文章

(プロムナード)結婚 家入レオ :日本経済新聞

男と女を哲学する 家入レオ :日本経済新聞

 

 

いずれも、飾りっけがなくて、お人柄や空気感が、そのまま伝わってくるような名文だと思うのです。

 

ウィキペディアによれば家入レオさんは現在24歳。

自分よりはるかに若い方の文章に、これほど人生に対する真面目な視線を感じてかんたんしたのは久しぶりのことです。

嬉しくなってしまいますね。

 

変な入り方ですが、こういう縁から、彼女のアルバムを一丁買ってみようかな、久しぶりに行くかタワーレコードみたいな気分になりました。

 

 

さっき載っていた倉田光吾郎さんの記事なんかもそうなのですが、

「なんでも作るよ」作家魂 鍛冶師の倉田光吾郎さん :日本経済新聞

(スコタコ!)

 

若い方々の素晴らしい才覚がこうしたメディアを通じてほどよく世の中に伝わって更なるご活躍に繋がっていきますように。

 

 

 

 

 

「星の王子さま4巻感想 まさかのマッスル・ドッキング、からの酷過ぎる返礼漫画」

 

星の王子さまの単行本が久しぶりに出たと思ったら酷さに輪をかけた内容になっていて盛大に笑えたのでかんたんしました。

 

jumpbookstore.com

 

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もはやあらすじを語っても意味のない漫画ではありますが、4巻では

 

 

……というどうしようもないナンセンスな動きが続いております。

一般的には迷走と言われる状況ですが、漫画太郎作品なので平常運転です。

 

とりあえずクラウドファンディングをしてくれた有徳人の方々は画太郎ファンらしく駄目な大人ばかりなので本望通り酷い●に方をしてくれないかなと一読者としては願うばかりです。

というか皆酷い●に方をしているので本望でありましょう。

なかなかできないよこんな経験。

 

 

 

返礼漫画もたいがい面白いのですが、白眉は初代ゆでたまご先生の乱入。

 

「やかましーーッ!!!」

「今 何時だと思っとんじゃコラーーーーーッ!!!」

(えーーーッ!!?)

「逃げるなコノヤローッ!!!」

「まてーーーーッ!!!」

カンカカンカーンカンカン

つるっ つるっ つるっ

ゴロゴロゴロゴロ

「うわああああああーーッ!!!」

「な…なんのこれしきーー!!!」

「か…火事場のクソ力じゃーーーーーッ!!!」

「「マッスル・ドッキングーーーッ!!!」」

ドーーン

「へのつっぱりは!!!」

「いらんですよ!!!」

プップー

「「!!?」」

ブチッ(シューズの靴紐が切れた音)

 

以下略

 

 

という素晴らしい勢い。

無駄に再現性の高い写実表現力。

シューズの靴紐が切れるネタの細かさもいいっすね。

 

ゆでたまご先生の許可を得ているのかどうかは定かではありませんが、ゆでたまご先生をここまでイジれる漫画家ももはや少ないでしょうから貴重なシーンではあります。

 

 

 

そんなこんなで本編以外のとこで主に笑いつつ。

 

直近でも、星の王子さまは返礼漫画の方が面白くなってしまって、本編の方は最後までたぶん行かないんだろうなとも予想はしておりますが……。

 

なぜか画太郎先生のテンションと底堅い単行本の売り上げが維持されてもう少しは連載が継続いたしますように。

 

 

 

「カレーライスの唄 感想」阿川弘之さん(ちくま文庫)

 

ちくま文庫から復刊された「カレーライスの唄」という阿川弘之さんの小説が、まことに穏やかで調和した娯楽小説でかんたんしました。

これぞ昭和期の連続ドラマ的展開。

 

www.chikumashobo.co.jp

 

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あらすじ(オフィシャルHPより)

会社倒産で職を失った六助と千鶴子。他人に使われるのはもう懲り懲り。そこで思いついたのが、美味しいカレーライスの店。若い二人は、開業の夢を実現できるのやら?そして恋の行方は?邪魔する奴もいれば、助けてくれる人もいる。夢と希望のスパイスがたっぷり詰まった、極上エンタメ小説!食通で知られた、文豪・阿川弘之が腕を振るった傑作!

 

 

昭和36~37年の作品ですから、いまから50年以上前の青春小説になります。

時代は違えども、どこか現代と相通じる手触り感があって楽しいですよ。

 

 

以下、軽いネタバレを含みます。

ネタバレどうこうよりも若い二人のライブ感ある紆余曲折を楽しむ小説ですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カレーを前面に出したタイトル。

黄色調の朴訥としたカレーデザイン表紙。

美味しいカレーライス屋さんを開こうというあらすじ。

 

こういうインプットから、本の大半はカレーの話なのかなと思っていましたが。

 

前半~中盤はひたすらに

 

 失業の話

 株の話

 サラッとした色恋の話

 

が延々と続き、「カレーどこいった」という印象を強く抱きます。

 

私のようにグルメエッセイやグルメ漫画が好きな人が、そういうのを求めて読んでいると肩透かしにあうことでありましょう。

 

 

とは言え、冒頭で少し述べた通り、その失業や株や恋の話が昭和期の青春ドラマや小説の黄金比に沿ったクオリティの高い展開でございますから、小説としては素直にスイスイと楽しんで読み進めていける訳ですね。

 

展開のポイントとなってくる

 

「ブラック経営者の憎たらしさ」

「失業の苦しみ@出版業界」

「金持ちの子どもという分かりやすい憎たらしさ」

「株で人生一発逆転」

 

といった要素なんて、これだけ抽出したら現代の娯楽作品と何ら変わりないですし。

 

 

こういった前中盤の人生ドラマを経て、主人公六助さんとヒロイン千鶴子さんはカレーライス屋の開業を目指すことになっていくのですが。

 

開業資金を「インサイダー情報で得た株取引」で確保するところは昭和のユルさを端的に示していて、現代人がこの作品を読む上でしみじみと当時はよかったと思える味わい深いエモーションスポットになっていて好きです。

 

 

後半のカレーライス屋開業パートも、料理の工夫あり、客呼びの苦労あり、若い二人のドラマありと、なかなか見どころ多く開放感多く、いい娯楽になっています。

 

個人的には東京商工会議所の無料相談を活用する場面が好きですね。

ちょっとしたことかもしれませんが、アントレプレナーマインドがある人の背中を押すシーンってイイと思うんです。

 

肝心のカレーも、おいしいだけじゃダメで「極端な辛さ」等なんらかのヒキが要るんじゃないかとか議論している料理ドラマらしい努力パートが楽しい。

起業系ドラマは試行錯誤シーンと、それが報われる開放感あってのものですよね。

 

 

若い二人のスピード感のない恋愛もほのぼの快く。

経緯や目的語は伏せますが、ラストの千鶴子さんのセリフ

 

「上げるわ、上げるわ」 

 

は名場面だと思いましたね。

550ページに及ぶ二人の気持ちがやっと顕在したかという満足度。

 

 

 

失業とか色々ありつつも、絶望感のない、明るさや希望に富んだ、よい昭和ドラマ。

ちょっとページ数は多いですけどユルユルヒョイヒョイと読める作品です。

肩こらないし読んでて楽しかったし、ちゃんと最後はカレーを食べたくなる。

 

 

大盛りカレーをもりもり食べる喜び、いいですよね。

私の胃腸も大盛りカレーをいつまでもバッチコイできる健康を保てますように。