肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「三重のトリセツ 感想 昭文社の本気と愛と熱量を感じる」昭文社「トリセツ」シリーズ

 

三重県がらみの友人から昭文社の「三重のトリセツ」という本を贈呈いただきました。

てっきり「ことりっぷ」的なライトで眺めていると楽しい系の、あるある地元ネタが並んだ内容の本だと思って読み進めてみたら、中身は地図・地形・交通・歴史・産業への濃厚な愛と知識が詰まったガチ本でかんたんしました。

 

都道府県の「トリセツ」が発刊済みということですので、皆さまお住い・お勤め・お好きな都道府県版のトリセツを読んでみるといかがでしょう。

地図専門出版社の本気が感じられて楽しいですよ。

 

ec.shop.mapple.co.jp

 

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よく見たら、オフィシャルHP掲載の概要紹介文章の時点で特濃でした笑。

 

地形、交通、歴史、産業…あらゆる角度から三重県を分析!

【本書の特長】
三重の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。三重の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。思わず地図を片手に、行って確かめてみたくなる情報満載!

【見どころ】
■Part.1 地図で読み解く三重の大地
県民もよくわからない謎 三重県は結局どの地方か?/
三重県を横切る中央構造線 南北で大きく異なる地質/
琵琶湖は伊賀にあった! 古代の地殻変動の痕跡を探る/
赤目四十八滝の独特な地形と生きた化石オオサンショウウオ/
鳥瞰図で見る 昭和初期の赤目四十八滝と香落渓/
2万年前は山だった? 志摩半島誕生の秘密/
若き日の大正天皇も泳いだ! 日本初の海水浴場二見浦/
奥伊勢の香肌峡の不思議 なぜ超硬水が湧き出す?/
飛び地と名勝瀞八丁が複雑すぎる3県境をつくった/
伊勢湾台風のせいで飛び地に? 愛知県に限りなく近い木曽岬町/
世界遺産鬼ヶ城を生んだ巨大な熊野カルデラ火山/
尾鷲の雨量が尋常でないのは海流と大台ヶ原のせい?…
などなど三重のダイナミックな自然のポイントを解説。

■Part.2 三重を駆ける充実の交通網
伊勢湾を渡って川を越え鈴鹿峠へと向かう東海道/
三重と浜松、大阪がつながる!? 太平洋新国土軸構想とは/
御師の活躍で大いに賑わった内宮と外宮を結ぶ参宮街道/
鳥瞰図で見る 吉田初三郎が描いた約90年前の参宮街道/
初瀬街道の「あお」越えと便利な参詣システム伊勢講/
街道に餅が並んだ理由は? 吉野へと続く鯖&塩街道/
参拝客を運んだ神都線の路面電車 バス路線網で車両が復活!?/
伊勢湾、熊野灘の海運と海上の百貨店赤須賀船/
峠が多い熊野古道伊勢路 戦前にはロープウェイがあった/
つながった南紀への路線 紀勢本線の難工事とは?/
名張と松阪を結ぶはずが……秘境駅だらけな名松線の謎/
東大卒の剛腕社長による英断!? 近鉄を発展させた軌間拡幅工事/
社名がコロコロ変わる養老鉄道 いま何代目? どこが運営?/
貨物輸送の歴史がわかる三岐線貨物鉄道博物館/
片道135㎞の路線もある! バス中心の三重の交通網…
などなど三重ならではの鉄道事情を網羅。

■Part.3 三重の歴史を深読み!
日本最大の恐竜が鳥羽にいた? ミエゾウから探る古代の三重/
あちこち巡行して決めた! 神宮が伊勢市にあるワケ/
壬申の乱で敗れた大友皇子は伊賀を経て東国で生きのびた?/
50年かけて少しずつ解明 明和町にあった幻の宮・斎宮/
平家のルーツは伊勢にあり! でも、ほんとうは伊賀だった?/
天皇の側近から没落するも明治維新で復活した北畠氏/
伊賀に忍者が生まれたのは修験道の行場が多かったから?/
徳川家康が駆け抜けた? 謎多き伊賀越えルートを歩く/
海賊大名と呼ばれた九鬼嘉隆 海上の城と鉄甲船の秘密/
築城の名人藤堂高虎は7回も主君を変えていた!/
クジで藩の命運が決まった? 幕末・維新の桑名藩の顛末/
津から四日市、そして津へ コロコロ変わった県庁所在地/
鳥瞰図で見る 吉田初三郎が描いた約90年前の津…
などなど、激動の三重の歴史に興味を惹きつける。

 

各内容が2~4ページの分量で、かなりマニアックで読み応えのある文章、美麗な写真・史料とともに紹介いただけます。

 

 

この本の特徴や昭文社出版であることを把握せずに読み開きましたところ、

冒頭に四日市コンビナート夜景や英虞湾、御在所ロープウェイ等々のグラビア、

続いて三重県29市町のマップ、鉄道網、道路網……

までは普通の都道府県ガイドやなあという印象だったのですが。

 

その次のページが妙にリアルな「三重県の凹凸地図」だったので「ん? なんか……様子が……」となり。

 

その数ページ後には「三重県を横切る中央構造線の存在」、「月出の中央構造線露頭地の断層では色も質も明らかに違う地層が接している様子を観察できておすすめ」みたいなことを紹介し始めてくれたので、「あっ……この本、あるあるネタとか観光ガイドとかとは違うお客さんを相手にしてるやつや」と問答無用で理解させてくださいました。

 

 

その後の2章交通網パートでも、海上のコンビニとして活躍していた赤須賀船」「紀勢本線の全通がいかに難工事・難事業だったか」「伊勢湾台風後の近鉄による軌間拡幅工事の英断」

3章歴史パートでも、大友皇子が伊賀越えして生き延びた説」「徳川家康の伊賀越えルート(定説ベース)を歩いてみた」「門前町の宇治と山田は昔不仲で、流血の抗争も起こった」、

4章産業パートでも、「今はもう閉山してしまったけど、伊勢国は水銀や銅の採掘でも名を馳せていたんや……東大寺大仏のメッキも、室町・戦国時代に隆盛を誇った伊勢白粉も、原料は伊勢の水銀なんやで」

 

等々、観光客というよりは地学ファンや鉄道ファンや郷土史家を呼び込もうとしているような内容の記事が目立ち、詳細な地図・地形図でそれらの場所やルートを補足いただけますので、130ページ程度の小冊子ながら読み終わる頃にはすんごい満足感が得られますし、謎の三重愛がむらむら湧いてきましたのでとりあえず三重に行ってこようと思います。

 

巻末の「三重が舞台の名作小説」紹介も個人的にはうれしい。

 

 

 

「トリセツ」というよりは「布教書」的な印象がなくもありませんが、このシリーズは名著だと思いますので見かけたら好きな都道府県をチェックしてみてくださいませ。

 

昭文社さん、野心的な面白い本を出したものですね。

この濃密な文章を執筆したのは吉田由美子さん、上田登さんという方だそうですが、すごいなあと思います。

 

 

こうした良著をきっかけに、各地域の地形や歴史や文化を愛する方が増えていきますように。

トリセツシリーズも版と改訂を重ねていただけますように。