肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

小説「警察署長 感想」スチュアード・ウッズさん / 訳:真野明裕さん(ハヤカワ文庫)

 

アメリカの有名なサスペンスフィクション大河小説「警察署長」を読んでみたところ、想像以上に骨太なストーリーライン、登場人物たちの骨太な人格っぷりが読み応えありすぎてかんたんしました。

久しぶりにのめり込んで小説を読んだ気がします。

警察もののサスペンス、主人公が三代にわたるような長編物語、ひとつの社会が成熟・変化していく様の彫が深い描写、等々に惹かれる方にはぜひおすすめしたいですね。

 

www.hayakawa-online.co.jp

www.hayakawa-online.co.jp

 

 

一九二〇年、米国南部の小さな町デラノで異常な殺人が発生した。だが捜査にあたった初代警察署長が事故死、事件は迷宮入りに。やがて二人の署長の手を経た後、事件は突如浮上するが……。四十数年に及ぶ殺人と南部の小都市の変遷を多彩な登場人物を配して描く力作巨篇。アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞受賞 030437

 

 

上のあらすじにあります通り、物語は1919年から1963年までの40年間以上に及ぶ内容となっています。

 

極力ネタバレをせずに物語の概要を紹介していきますと、

  • 「デラノ」という架空の南部(ジョージア州)の町を舞台にしている。
  • はじめは「警察署長一人の警察署を新設」する集落レベルの町が、交通網や工業が発達していく中で徐々に大きな町になっていく。
  • 南部の州なので、南北戦争の記憶も新しく、黒人がアメリカ社会でどのように扱われ方が変っていくかを生々しく描いている。
  • そんなデラノの町周辺では、40年間にわたって若い男性の不審死や失踪が相次いでいる。
  • 主人公は1920年代の初代警察署長、第二次大戦直後の警察署長、1960年代の警察署長である。なお、それぞれに血のつながりはない。全員が立派な人格者という訳でもない。
  • 三人の主人公は、それぞれの動機から、デラノ近郊の若者不審死・失踪事件を追っていく。

 

という流れです。

 

率直に言うと、読みながら「犯人を推理する」「トリックを解く」タイプの小説ではありません。

犯人はすぐに判明します。

むしろ、読者的には犯人が明らかなのに、登場人物たちは真実を知らないから、読者としては「早く気づけ! そいつを野放しにするな!」感がどんどん溜まっていき、物語のクライマックスで楽しくカタルシスを得られるような構成になっています。

 

 

 

ここからは少しだけネタバレを含んで、個人的にこの小説で一番好きなところと好きな人物を。

犯人の名前とかクライマックスに至る流れとかは書きません。

 

上でもちょっと書きましたけど、この小説、アメリカ社会の変化を大胆に骨太に描いているところがすごい好きなんですよね。

アメリカ人の賢いところというか、「実は内心ではけっこう不安を抱いている」「不安に対して、すごい的確に先手先手で手を打っていく」描写が鮮やかでして。

存在感を増していく黒人の扱われ方の変化が最たるものですし、ほかにも日本人とかユダヤ人とかの怖さが描かれたりしていますし。

著者のスチュアート・ウッズさんはカーター大統領の政治活動を手伝っていた経歴をお持ちとのことで、実際にアメリカ政財界の立派な人物たち(あるいは残念な人たち)をよくよく観察して、モデルにしていったんだろうなあというのが伝わってきます。

 

そういうこの小説の魅力を体現するような登場人物が、ヒュー・ホームズさん。

貧しい生まれながら勤勉さでのし上がり、

デラノという町の創設者のひとりであり、

町の発展に尽力した銀行経営者であり、

町の発展に尽力した政治家であり、

主人公(除く二代目)をバックアップする頼もしい存在でもあるという。

 

この、特に華はないし主人公にはなれなさそうだけど実務力や洞察力やそつない社交力と調整力がハイスペックにまとまっていて常に地域の未来に向けた対策を進めているような人間性がですね、超渋くて格好いいんですよ。

現代のエリート方にとってもロールモデルになるようなキャラクターだと思う。

 

ホームズの性分には誇大妄想的なところがなかった。J・P・モーガンのような大銀行家になりたいとは思わなかった。小さな池の大きな魚になって、自分の運命と自分が選んだ池の運命とを左右できるだけの力をつけたいというのが望みだった。

 

 

そして、そんなホームズさんが英知と心血を注いで築き上げてきたデラノという町が、主人公たちをはじめ多くの人間の力で築いてきたまっとうな歴史が、一人の狂った犯罪者の手でベッタリ汚されてしまうという巨大な無情さがですね。

 

いい小説だなあ……そうだよ……人間の英知はすごい……世の中を変えていく……でも、たった一人の狂気だって世の中を曲げてしまうパワーがあるんだ……こういう社会の実情文学好き……という気持ちに浸れて最高でした。

 

なんかこう書いているとジョジョ4部みたいな感じがしますね。

主人公三代も、初代は紳士タフガイ、二代目はヤカラタフガイ、三代目は元不良のクールタフガイなので、なんとなくジョジョっぽい。二代目はジョセフさんと違ってガチヤカラですが。

 

 

いい小説ですので、見かけたら確保して読んでみるといいと思いますよ。

長い時間軸をしっかり構成した小説、読み味は間違いなしです。

 

われわれもホームズさんのように未来を直視して備える力が少しでも身について、機能発揮していけますように。

狂った犯罪に遭遇することなんてありませんように。お巡りさんいつもありがとう。