名前だけは聞いたことがあった三好正慶尼さんを題材にした小説が存在していて、首尾よく入手することができてかんたんしました。
「奴の小万」と称され、江戸時代に浄瑠璃や歌舞伎の題材としてもてはやされた大阪の女傑さんでありますが、小説内でも期待通りに活躍されていて面白かったです。特に大阪ミナミ界隈に土地勘のある人であれば一層楽しく読むことができますよ。
身の丈六尺近い、雪のように肌の白い<奴の小万>は、愛しい男を守るためなら、角材を手にしてでも大立ち回りに走る。大阪屈指の豪商の娘でありながら、「せっかくこの世に生まれたからには、くわっと熱くなる思いがしてみたい」と、型破りの生き方を貫く。歌舞伎にも登場する痛快な女侠客の実像を初めて描く!
三好正慶尼さんは享保~文化頃、今から200年前くらいの江戸時代に活躍された方です。裕福な商家の娘に生まれるも、侠客的な生き方を選んじゃって有名かつ孤高の尼さんになりましたよ的な。
滝沢馬琴さんも正慶尼さんにあこがれて、大阪観光に来た際はわざわざ彼女のところを訪ねていったそうです。強火ファン。
小説内でも血が熱くたぎると男相手に立ちまわったり、ダメ男についつい入れ込んじゃったりと、「そっち行っちゃうの? でも……分かる!」みたいな大阪人に好かれそうな女性の生き方をされております。
詳しい経緯はネタバレしませんが、わたし的には
- 豪商家の一人娘なのにヤンキー的な男子相手に初体験してしまうところ
- ヤンキー的な男子と一緒に圧倒的多数の男たちと大喧嘩してしまうところ
- ヤンキー的な男子を失って以降も、幸せになれそうもない男ばかりを好きになってしまうところ
- 一方で漢詩や和歌、香道等の教養を高いレベルで身に着けていて、ふとした時に古歌を口ずさんだりするところ
- ガチ教養人に出会えば、素直に敬服するところ
- 大阪の若い女たちから「型破りの女」として憧れの目で見られて、本人もまんざらではないところ
等、一つひとつに好感を抱きましたね。
単なる乱暴娘というだけではなくて、生まれた家や性別、世間の常識といった見えない壁をいつも本人は自覚していて、それを彼女なりのやり方で超えていこうとしているところに、共感を抱く方も多いんじゃないかなと思います。
というか、特徴を挙げていたら「喧嘩が強い瀬戸内寂聴」「金持ちの家に生まれてしまったじゃりン子チエ」みたいな人物をイメージすると分かりやすい気がしてきた。
一番好きなシーンは、最後の方、正慶尼さんの相棒であるお岩さんとお亀さんがワアワア泣く場面。
このほか、同時代の関西の著名人がちょいちょい登場するのも好きです。
ちなみに、「三好正慶尼」という名乗りについては
まず正慶尼の本姓は三好氏で、「三好長慶の裔なり」とある。
かつて近畿一円に覇を唱えた戦国武将の子孫であるとのふれこみだが、この手の先祖自慢はあまり信用しても仕方がない。ただ江戸時代には、徳川以前に滅んだ武将の末裔と称することで、いわば反体制の匂いを表明したいような気分がどこかにあったのかもしれない。
ということで。
たぶん真面目に研究した人はいないだろうと思いますが、まあ長慶さんの直系子孫ということはないんじゃないかな……とは思います。
一方で、江戸時代中~後半になっても大阪の土地では三好家の記憶がかすかに残っていたり、風流と暴力と型破りを併せ持つ女性が「三好長慶」という存在にシンパシーを抱いていたりしたのなら、三好長慶ファンとしてはけっこう嬉しい話ですね。
女性に限らず、自分の置かれた場所に窮屈さを感じている方は多くいると思いますけど、懸命に生きていく中でそれぞれの性分にフィットする暮らしを手に入れることができますように。