クィア(奇妙な/性的マイノリティを包含する)小説の名手として知られるカーソン・マッカラーズさんの短編集を初めて読んでみましたところ、確かに奇妙で、直接的な同性愛というよりは「愛の多様性」というものを感じさせてくれる内容でして、そうした愛のかたちを硬質で独特な文章で読ませてくれるところが稀有やなとかんたんしました。
なんというか、ピートの効いたウイスキーを初めて訪れたバーで緊張しながら飲んでいるときのような、「日常的でないし日常にしようとも思わないけど、決して嫌いではない、たまにならいい、くらいの距離感でリスペクトしながらつき合いたい」的な読み味で不思議。
再評価が進むマッカラーズの短篇集。奇妙な片思いが連鎖する「悲しき酒場の唄」、アルコール依存症の妻に対する夫の愛憎を描いた苦みのある佳品「家庭の事情」、思春期の少女が必死に失うまいとする親密さと愛の形を細やかに描いた「そういうことなら」。異質な存在とクィアな欲望が響きあう触発の物語八編を収録。
収められれているお話は次の8編です。
- 悲しき酒場の唄
- 騎手
- 家庭の事情
- 木、石、雲
- 天才少女
- マダム・ジレンスキーとフィンランド国王
- 渡り者
- そういうことなら
それぞれ、あらすじを紹介することに意味を感じないので説明とか文章引用とかはやめておきます。
いちばん奇妙な愛のかたちを味わえるのは冒頭の「悲しき酒場の唄」でしょうか。
始まりから終わりまで、けったいだけど、確かに存在する愛、共感はしないけど見ていられて同情を寄せるくらいはできる――という感想を抱きます。
どういう発想とか動機でこういう小説を書けるのか、まるで分かりません。
そういうところも含めてすごい作品だなあと。
「家庭の事情」「天才少女」「渡り者」「そういうことなら」あたりは読者としても共感できたり、ご自身の家庭や人生と重ね合わせられる場面があると思います。
いずれも苦かったりもやもやしたりもがくようであったり、ハッピーハッピーな感じではまったくありませんが、やはり小説としては寄り添うような気持ちで読んでいたくなる、不思議な味わい。読んでいて一番しんどかった(いい意味で)のは「天才少女」ですかね。
いずれの作品も、展開・文章ともに独特の香りがしています。しかも一見淡々とした外見なのに中身は蒸留されていてアルコール度数がめっちゃ高い系。
合う・合わないはめっちゃある作家さんだと思います。
オーソドックスな本を読み続けた後に、「たまには一風ちがう小説を読んでみたいなあ、海外系の」という気分な時にセレクトしてみると、読書生活の幅が広がっていいんじゃないでしょうか。
世の中には果てしないほど多様な愛のかたちがありますし、当事者の置かれた状況もまたさまざまであります。誰もが永遠に幸せ……とまではいかなくても、誰もがいっときくらいは幸せな愛に触れられますように。