肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「映画プリキュアドリームスターズ!」宮本浩史監督

 

プリキュアの'17春映画「ドリームスターズ!」にかんたんしました。

 

www.precure-dreamstars.com

 

 

私はドキドキ!プリキュアハピネスチャージプリキュア
Go!プリンセスプリキュアの3作品しか知らないビギナーですが……。

ちびっ子の付き添いで何作かの映画を観に行っており、
その中でも今回の映画のCGアニメにはかんたんしました。

(映画としての完成度が高いと思うのはハピネスチャージプリキュアです)

 

内容は子ども向けですから、CGアニメについて感想申し上げます。

今作は3D(CG)の世界と、2D(通常のアニメ)の世界を行き来する構成でして、
2Dの方も純粋にアニメとしてよくできている感じだったのですが、
とりわけ3Dの方は技術の進歩を実感できて、よかったなあと感じました。

実験的、トライ的なスタンスの映画を尊重したいと思います。


CGは従来シリーズのエンディングや映画で研鑽を重ねてきた印象がありますが、
今回の映画の美しさ、表現の多様さにはたいそう驚きました。

全体的に「和」「京都」をモチーフにしているようなのですが、
3Dの「桜」「光の当て方」「水面」の表現が滅茶苦茶きれいでした。

何より映画冒頭の、伏見稲荷の千本鳥居と厳島神社の大鳥居が混じったような
幻想的な光景を走り抜けるシーン
子ども向け映画としては、クレヨンしんちゃんの「オトナ帝国」、
ラストのしんちゃんが走り抜けるシーン(21世紀を手に入れろ)ばりの
美しさを感じました。
このシーンだけでも、大人料金を払った価値があったかなと。

加えて、全体的に使用されている和の折り紙・千代紙をモチーフとした背景
和傘を活用した場面転換
桜吹雪に対する光の当て方

プリキュアが初めての映画体験というお子様も多いと思いますから、
原体験としてこういう美しい場景をインプットするのは大変有意義だと思います。



一方、土・砂・雨の表現、戦闘シーンのバリエーションという点では
まだまだ2Dアニメの方に一日の長があるように感じました。
この辺りは引き続き研究の余地がありそうです。

嵐山の竹林をモチーフにしたシーンも、少し道幅が広すぎるように思いました。
あんなに幅が広いと、情趣が削がれてしまう印象があります。
広くないとキャラクターを動かしづらいとは分かりつつ……
散歩道としてはもう少し道幅が狭い方が味がある。


まあ、こんな細かいことを指摘するのも野暮だと思います。
年々技術が向上しているのは間違いないのですから、
引続き日本CGアニメの水準を高めていっていただきたいと願います。

 


その他雑感を申し上げますと、
今回の映画は従来以上にお子様が楽しめるよう随所で工夫されていた印象です。
いままで拝見したシリーズの映画よりも、ちびっ子たちが一喜一憂し、
一所懸命ミラクルライトを振っていましたよ。

 


あと、直近作のプリキュアアラモード
初見だったのですが、なんかすごいですね。
敵をケーキまみれにして浄化していました。

敵をケーキまみれにして浄化していたんですよ

自分でも何を言っているのか分からないのですが、
なんしかスゲェ、とかんたんしました。


まとめますと、CG映像の美しさを堪能できる良映画だと思います。
小さいお子様が身内にいる方、CG技術に関心のある方におすすめです。

 

 

東映作品ですし、この技術を使ってグリグリ動く鋼鉄ジーグとかが観たいです。
まずは劇場版マジンガーZが傑作となりますように。

 

「飛ばぬ鳥なら落ちもせぬ」企画演劇集団ボクラ団義

 

企画演劇集団ボクラ団義による松永久秀主役の演劇、
「飛ばぬ鳥なら落ちもせぬ」にかんたんしました。

企画演劇集団ボクラ団義 » ボクラ団義最新作は時代劇!!『飛ばぬ鳥なら落ちもせぬ~梟雄と呼ばれた男 右筆と呼ばれた男~』

 

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ネットにこんなことを書くのは初めてですが、
松永久秀ファンや三好家ファンや畿内戦国史ファンの方々に向け、
緊急・拡散希望と声を大にして言いたい。


松永久秀忠臣説」「天下人三好長慶」を主題とした演劇が、
いまなら東京の吉祥寺で観ることができるのです。
これは、戦国時代ファンにとっては大変な事件だと思いますよ。
私の中では戦国時代展以上の衝撃でした。

 


ネタバレしない程度に、あらすじを書きます。

主人公は松永久秀

死の直前である天正五年(1577年)、
三好長慶家臣であった弘治~永禄年間(1550~1560年代)、
そして現代を行ったり来たりしながら、
松永久秀って実はこんな人」を解きほぐしていくストーリーです。

同じく主役クラスとして「楠木正虎」「風魔出身の飛脚」が据えられており、
三好長慶祐筆としての松永久秀
松永久秀祐筆としての楠木正虎、
彼らの手紙を携え駆け抜ける飛脚、
三者をメインに物語が展開して参ります。

その過程で、三好長慶の生涯も色濃く描かれていきます。
途中途中では主役を喰うくらい長慶兄弟が活躍していましたよ。

 

こんなコアな戦国時代ファンにしか受けなさそうな物語を、
企画演劇集団ボクラ団義が見事に熱演されていました。

評判は耳にしたことがあったものの、実際に彼らのお芝居を観るのは初めてです。

劇場は満席。客層は老若男女様々。
相当の人気がある劇団のようで、常連っぽいファンもちらほら見受けられました。
たぶん三好家目的で観に来ているのは私くらいで、
基本的には劇団のファンや演劇好きの方がいらっしゃっているのでしょう。


演技も、流した稽古の汗の量、込めた熱意の丈が伝わってくるような充実ぶり。
主役級の方々はもちろん、脇役や、セットを目まぐるしく運用する裏方さんまで、
心を波打たせるような素晴らしいパフォーマンスを見せていただきました。

チャンバラものの舞台を見るのは久しぶりですが、
アクションシーンは見応えがありました。
会話シーンも役者さんたちがよく動くので見飽きるということがなかったです。
2時間40分の長いお芝居ですが、時間の長さはまるで感じませんでしたね。


よかった。
よかったんです。
本当に誰も彼もが好演でした。

観客に強烈な「美」を見せつけてくれる松永久秀(鵜飼主水さん)。
舞台全体を悲哀と狂気で埋め尽くすかのような三好長慶佐藤修幸さん)。
知恵もチャンバラも切れ者な癖に実は血が熱い楠木正虎(沖野晃司さん)。
活気と元気を濃縮したようで芝居に勢いを与えてくれる飛脚(竹石悟朗さん)。
何をやっても面白い現代人兼三好之虎兼筒井順慶細川晴元添田翔太さん)。
実直で誠実で、全体を引き締めてくれるような存在の島左近(吉田宗洋さん)。

挙げていったら切りがないほどです。


面白い場面ではしっかりと劇場全体が笑い、
緊迫した場面では劇場全体が息を呑み、
哀しい場面では劇場全体が静まりかえり、ときに鼻を啜る音が聞こえてくる。

想像してごらん。
シュッとした大都会のお客さま方が、松永久秀や三好家のストーリーに
笑い、涙し、感動している光景を。

「三好家の物語が真っ当な人々に受け容れられている」
「若くて実力あるイケメンが三好家武将を演じている」

正直、私としてはそれだけで動悸が止まりませんでした。
こんな時代が私の生きているうちに訪れるなんて。
「踊る三好長慶(オープニング)を目撃するなんて、最初で最後かもしれません。

 

アフターパンフレットと言って、ネタバレつきの詳細な配役パンフを
終了後に配ってくれたのも素晴らしいです。

こういう細やかな心配りをされると、また違うプログラムも観に行きたくなります。

 

 

繰り返します。
松永久秀ファン、三好長慶ファンは観に行きましょう。
戦国時代ファンでなくても観に行きましょう。
純粋なお芝居としても、極めて完成度の高い内容です。
笑えます。泣けます。感動できます。

残酷な事実をここで申し上げますが、'17/4/16までです。

 

ああ、なぜ東京公演だけなのだろう。
絶対に関西・四国でも演るべきだ。
三好家・松永家のお膝元で演るべきだ。

きっとこの劇は、(少なくとも三好クラスタの中では)伝説になる。
語り継がれるものになる。

早くDVD化されますように。
私は買う。
君も買おう。



↓(追記)観劇三昧で観れるようになりました

「観劇三昧」で松永久秀演劇「飛ばぬ鳥なら落ちもせぬ(ボクラ団義)」 - 肝胆ブログ

 

 

 

 

 

……ここからは更に私情を吐露します。

痛い話なのですが、私は以前「きょう、」という三好長慶を主人公にした小説を
書いて、ネットにアップしたことがあります。

内容は素人丸出しなのですが、それでも、自分なりに三好家にかかわる場景を
あれこれと想像した訳です。


自分の思い描いていたイメージが、まさに舞台の上で演技となって表れていた。
そのことに、心底から深い感動を覚えました。


汚い関西弁を使う、長慶のことが大好きな松永久秀
宏大な狂気を身に宿し、遺された者たちまでをも苦しめる三好長慶
「虎兄」「冬兄」などと呼び合う仲良し三好四兄弟。
離縁してからもかつての夫と幽かに繋がっている長慶の妻。
(ちなみに、役どころは違いますがあまねさんという女性も登場しました)


ひょっとしたら私の書いた駄文を読んでくれたのかもしれない(思い上がり)。
あるいは、私の発想と波長が合っていたのかもしれない(キモい)。

客観的に見たら随分とアレですが、どちらにしても私は嬉しい。
とても幸せな気分なのです。


こんなに面白いお芝居をありがとうございました。


まったく、いい時代になったものだ!!

 

 

 

「スッラ」塩野七生さん ローマ人の物語 勝者の混迷より

 

スッラという古代ローマの男にかんたんしました。

 

以前書いた「ローマ人の物語」感想の続きになります。
私の一番好きなローマ人、スッラさんを紹介します。

trillion-3934p.hatenablog.com

 

 

 

ルキウス・コルネリウス・スッラ。

政治家であり、軍人であり、独裁者であり、
虐殺者であり、快楽主義者。

しかもそれらすべてで一流という希有な才覚の持ち主であります。

 

活躍した時代は共和政期と帝国期の狭間。

ハンニバルと対峙したスキピオ
帝政への道を切り拓いたカエサル
その超有名な両者の間を埋める英雄のひとりがこのスッラさんなのです。

 

名門コルネリウス家に生まれたのですが、
若い頃は大変貧乏だったそうです。
一戸建ての家を買えず、現代で言う賃貸アパート暮らしだったとか。

ただ、めちゃくちゃ頭がよかった。
コミュ力も抜群に高かった。
何より、匂い立つような美少年だった。

娼婦の姉ちゃんたちに貢いでもらって学問を深めたという
羨ましい逸話が残っているくらいです。
有能で人柄のよい没落貴族のイケメン、そりゃモテますよね。

そういう訳で貧しい生まれ育ちながら、
このスッラさんはすくすくと出世していったようです。

 

この頃のローマは。

ハンニバルさんを輩出した大国「カルタゴ」を滅ぼし、
地中海の覇者となった後なのですが。

急速に広がった領地をもうひとつ上手く纏めていくことができず、
対外戦争と内乱がそれぞれ頻発していたのです。

そして、スッラさんは内乱と対外戦争を同時に抱えながら、
最終的に両方で大勝利するという異次元の戦果をあげるのでした。

 

エピソードの一つひとつがまた面白い。
大雑把に時系列で書いていきますと。


内乱で失脚したかと思えば、躊躇なく首都ローマを武力占拠(ローマ史上初)。

不安定なローマを後にギリシアへ遠征。
ローマでは案の定スッラに敵対する派閥が巻き返すも、これをシカト
ギリシアの神殿から財宝を奪って戦費調達し、そのまま対外戦争に突貫。
三万(スッラ)vs十一万(敵対国)で戦って、あっさり勝利。
敵の戦死者と捕虜は合わせて十万、味方の戦死者は十二名という訳の分からなさ。

続く第二戦でも圧勝。敵軍を片っ端から捕虜にして売り飛ばして戦費調達。

そろそろ内乱の方にも手を付けなければならないスッラさんは、
いいタイミングで敵国の王を恫喝して和平成立。

交渉術も格好いい。少し長いのですが、ローマ人の物語から引用します。

迎えたスッラは、王に椅子を勧めるどころか、差し出された手も受けずに問いかけた。
「わたしの提示した条件で、あなたは講和を受け入れるのか」
礼儀を無視されて、ミトリダテス(注:敵国王)は、怒るよりも不意を突かれた。不意を突かれて、彼は黙ってしまった。スッラは待たなかった。
「問いかけられた側が、答えるべきである。勝者は、無言でいることもできるのだ」
ミトリダテスは(弁明が続く。省略)
「ポントス王のミトリダテスは、演説の名手であるという評判は以前から聴いていたが、その評判の正しさを、今わたし自身が納得する想いだ。しかし、この場ではそのようなことをしている暇はない。あの条件での講和に、是か非かだけを聴きたい」
不意を突かれっぱなしのミトリダテスは、思わず「イエス」と答えていた。
ここではじめて、スッラは、六歳年下のミトリダテスの右手どころか両腕までとり、手をとっただけではなく肩まで抱きながら、調印の卓に伴ったのである。


塩野七生さんによる脚色も多分に入っているとはいえ、
実際にとんでもないスケールの男だったのでしょう。

 


この後も快進撃は続きます。

イタリアからやってきた反スッラ派の軍勢を相手にしたと思ったら、
相手軍勢三万五千人が全員スッラに寝返り
集団脱走に気づいた相手の敵将は、気の毒なことにそのまま自死を選んだそうです。

 

さあ、対外戦争を片付けたスッラさんがイタリアに帰ってきました。
反スッラ派は大慌てです。

スッラはゆっくりとイタリアを掌握しながら進軍し、
敵方の軍勢をすべて粉砕した上で、再びローマを制圧します。


ここからスッラさんの虐殺が始まります。
反スッラ派の面々は全員「処罰者名簿」というリアルデスノートに名を記され、
カエサルなどごく一部の例外を除いて、ことごとくが処刑されました。
ひでぶ

その数、一説には四千人を超えるとか。

 

更にスッラさんはローマ史上例のない「任期無期限の独裁官に就任します。
……これ、ほぼ皇帝ですよね。
スッラの虐殺から逃げ延びたカエサルさんも後に終身独裁官になりますが、
こうした「プレ皇帝」はスッラさんから始まったのです。


では、独裁者になったスッラさんが皇帝染みた政治を行ったかというと。

実はまったくの逆なのです。

これまでの内乱はざっくり言うと「元老院派」と「民衆派」の争いだったのですが、
スッラさんは「元老院派」。
貴族などのエリート層による合議で国を運営しようというスタイルです。

スッラは2年ほどをかけて、この元老院派の権力を強化しまくります。
独裁者でありながら、貴族や新興騎士たちの力を存分に高めはったのです。


そうして、独裁官就任の僅か2年後、「政界を電撃引退」

暗殺されることもなく、別荘に引き籠って、釣りや散策や回想録執筆などに耽ったり、
喜劇役者や喜劇作家や喜劇詩人やらときゃいきゃい楽しくご飯を食べたり、
三十五歳年下の妻と乳繰り合ったり、男娼といちゃいちゃしたりして過ごすのです。

そのまま1年ほど面白おかしく暮らして、ぽっくり死亡。
遺体は恩顧の軍兵によってローマに送られ、国葬の扱いを受けます。

燃えあがる火の手を眺めながら、スッラに心酔していた者も敵対していた者も、このときばかりは抱いた想いは同じだった。死に方といい、前代未聞の壮麗な国葬といい、スッラはやはり幸運な男であった、と。


墓碑にはスッラさん自身が考案した碑文が彫り込まれました。

「味方にとっては、スッラ以上に良きことをした者はなく、敵にとっては、スッラ以上に悪しきことをした者はなし」

 

 


……いかがでしょう。
実にユニークでグレートな男だと思いませんか(笑)。

 

 

塩野七生氏は彼の能力を充分に認めながらも、こう評しています。

スッラは、「元老院体制」としてもよいローマ特有の共和政という「革袋」を、懸命に修繕しようと努めたのである。あちこちのほころびもただ単に古くなったがゆえであり、丈夫な皮きれをあてて補強した革袋の中には、新しい葡萄酒を入れれば、まだ充分に使用可能であると信じていたのだった。(中略) 「革袋」はもはや捨てるしかなく、捨てて新しいものを創り出すしかないという考えは、彼らの理解を越えていたのである。


他のローマ特集などでもスッラさんは概ね似たような見方をされていて、

「本人は有能だったけど、死後、スッラが成した元老院体制はすぐに崩壊した」
「やっぱりカエサルのように帝政へ進まないとね。元老院派じゃダメだよダメダメ」

みたいなコメントがつくことが多いように思えます。

 

 

ここからは完全に私見ですが。

……皆さん、男という生き物を真面目に捉え過ぎだと思います。

「才覚ある人物はその生涯を政治なり仕事なりに費やすべき、費やしたはず」という
前提で議論されているのだと思うのですが。

実際、大抵の才覚ある人物はそのように生きているかもしれないのですが。

 

スッラは、そんな単純な人物ではないように思えるのです。

私は、スッラが人生で最も実現したかったのは晩年の1年間の暮らし、
趣味やトークや愛欲に塗れた暮らしだったのではないかと妄想しています。


特に根拠はないです。
そう考えた方が面白いからです。


恋人が待っているから、徹底的に反対派を虐殺して政局を安定させるスッラさん。
老後の時間が欲しくて、「王」「皇帝」という終身職には就かなかったスッラさん。
もうここまでやったからええやろと、独裁官から突然引退しちゃうスッラさん。
元老院派とか民衆派とか正直どうでもよくて、近道を選んだだけのスッラさん。


なんといってもスッラさんは古代の人間ですから。
古の神々、多神教の神々ってこんなキャラクターばかりですしね。

だいたい、スッラほど頭が良ければ、自分が死んだ後のことくらい
概ね想像がついてそうなものだと思うのですよ。

少し真面目なことを言えば、政治や経営って試行錯誤の連続になる訳ですが、
ときには「極論に振る」というプロセスも必要なんです。
極論に振って上手くいけばそれでよし。
上手くいかなかったら、「極論でも駄目だったのだから」という風を利用して
大きく方向転換するもよし。

なんかそんな心理だったんじゃないかな、と。
素人がこんな妄言吐いていると怒られちゃいますかねえ。

 

 

いずれにせよ、こんな魅力的なスッラさんがドマイナーなのは残念です。

少しずつ少しずつ、スッラさんの知名度が向上していきますように。

 

 

「スラ(スッラ)」モンタネッリ版ローマの歴史より - 肝胆ブログ

 

「十字路が見える」北方謙三さん

 

北方謙三さんのエッセイ「十字路が見える」にかんたんしました。

 

www.shinchosha.co.jp

 


北方謙三さん……
私の中では「萌え殺しの謙三」ということになっています。


ハードボイルド作家で、中世史の歴史小説家で、中国史歴史小説家で、
「ソープに行け」で有名な若者の導き手でもある北方謙三さん。

昔からキュン死に系のおじさんでしたが、御年七十歳に近づいた昨今、
ますますかわいいお爺ちゃんになられているようです。

 


この本はそんな北方謙三さんのエッセイで、
旅について、葉巻について、料理について、映画について、
音楽について、車について、文章を書くということについて、
北方節を思う存分楽しめる内容となっております。

既に北方謙三さんの本を読んだことがある方には
なんとなく内容が想像できるかもしれませんが、
このエッセイは想像以上に萌えポイントの多い本でございました。

 


例えばこんな記述。

まさに本を読み始めた冒頭1ページから、散歩について語ってはるのですが。

闘争的な気分で歩いていることが多いから、擦れ違う人を、投げ飛ばせるかなどと、測るような時もある。これを読んでいる君よ、私と擦れ違う時は、気をつけろよ。


どうですか。気をつけろよ。しょっぱなからキメてくれます。
格好いい。かわいい格好いい。

 

 

そもそも章立てからして北方節全開ですからね。
全部で4部構成なのですが。

 第一部 暁に風を追う
 第二部 白昼に霞を食らう
 第三部 夕べに馬乳酒を呷る
 第四部 真夜中にひとり哮える


いい。本当にいい。
失敗したカレーを泣きながら食らうとか、
蛸と格闘する話とか、
スペインを旅した話とか、
アフリカで身ぐるみ剥がされた話とか、
昔のチョウ・ユンファはよかったがいまはオーラが消えてしまったとか、
旧東ドイツの若者が西ドイツでやってるデヴィッド・ボウイのライブを
聞きたくてブランデンブルク門に集まってきた話とか。

エッセイ一つひとつのエピソードもさすが面白い。
感心したり共感したりすることも多いのです。

そしてそれを、ちょっとドヤったりときには照れたりしながら
北方氏が語っているのかと想像すると、もうものすごく萌えるのです。
「真夜中にひとり哮える」とご自身で言っている通り、
影で寂しくなったり過去に囚われたり悶絶したりしてはりそうなのもいい。

 


とりわけ第四部はすごい。
詳細なネタバレはしませんが、

 ・迷惑メールブロックのやり方が分からない
 ・海外のAVサイトに見入ってたら数万円請求された
 ・勧められて水素水を飲んでいると放屁の数が増えた

みたいなキュン系エピソードを怒涛の如く開陳してきて、
もうたまらない。

くそ、このお爺ちゃんたまんねえな。

ずるいですよね。
日頃はハードボイルドで、尋常でない実績をあげてはって、
そんなレジェンド爺ちゃんが「助けて! 迷惑メールが止まんないの」ですよ。
こんなん銀座の姉ちゃんでなくてもギャップ萌えに悶えますよ。

 

 

ホットドッグ・プレスで人生相談をやってはった時代のエピソード。
電車の中。どかどかと乗りこんできた高校生の集団が。

あのオヤジ、北方謙三の真似してるぞ、と聞えよがしに言うのである。
私はむっとして、本物だぞ、と睨みつけた。あ、真似した真似した。高校生たちには、大受けに受けた。私は、ひどく傷ついてうつむいた。


目に浮かぶようです。
本気でへこんでそうで、それがまた萌えます。
こういう格好つけのお爺ちゃんがシュンとしてると、もうウキャーですね。

 

 

タイトルの由来。

男の人生は、十字路の連続である。
右へ行くか左をとるか、それとも真っ直ぐに進むか。君はいま、十字路に立っているかね。つらいものと楽なものが見えたら、つらい方を選べ。それが、ほんとうはつらくない。長く生きた人間からの、ちょっとした忠告さ。


お見事だと思います。
真理を仰っていて、なおかつこういう表現が似合う男は滅っっ多におりません。
こうした「男の台詞」を直球で投げてくれるのが北方氏だと思います。

 

そんな十字路論。

途中、ご自身の病気のエピソードの中では、

私には十字路がなかった。いや、だらだらと続く一本道しか見えなかっただけで、もう少し視点を変えれば、十字路は見えてきたのかもしれない。


こんな弱気なことを仰ったりもするのです。


でも、この本の最後の最後ではあらためて十字路論が出てきて、
それは北方謙三さんにしか語れない、北方謙三さんだけの人生が描かれていて。

是非、多くの方に読んでほしいと思います。
七割くらい萌え殺し本ですが、真髄はやはり男の教科書なのです。
女の子は、彼氏なり息子なりに読ませましょう。

 

 

ご本人がどう願っているかは分かりませんが、私は願っています。
どうかこんな素敵なお爺ちゃんが元気に長生きしてくれますように。

 

 

 

大林組の「コーポレートシンボル」

 

某所で見かけた大林組のコーポレートシンボルにかんたんしました。

 

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www.obayashi.co.jp

 


企業のシンボルマーク……ロゴ……っていいですよね。

銘々に個性も特徴もあって。
見れば見るほど味わい深いように思います。

 

この大林組のマーク。


大きな土台の上に富士山のようなピラミッドのような建造物が
乗っているようで、スケールの大きさを感じます。

 

デザインはひし形向きにした正方形の上部に白い帯を当てて、
残った下を緑に、上を青に塗った形。

この緑の部分に大地への敬意を、
青い部分に知性への自信と誇りを感じます。

そして、白い帯の部分が雲海のようで、
青い人工的な部分に奥行きと壮麗感を与えています。


オフィシャルホームページによれば、

人と地球の潤い豊かな調和を願い、果てしなく続く美しい地平線や水平線の彼方に大きな夢を託しつつ、逞しく未来を創造する私たちの心を表しています。
末広がりの形で表現される下部は、あらゆるものを育む安定した地球のイメージであり、また大林組の限りない発展への願いを込めています。鋭く上方を指向 している上部は、新たな価値を造り出す活力ある知識集団として、常に向上を目指す大林組の姿勢を示しています。


ということで、私が抱いた感覚と似ているようなちょっと違うようなですが、
やはりその言やよしとかんたんします。

さすが大阪城天守を築いた大林組

スーゼネに相応しい、まことに立派なデザインだと思います。
思わず立ち止まってはぁほぅと眺めてしまいました。

 

 

日頃は気づいていないんだけど、よく見るといいなあというデザインを
発見できると嬉しいんですよね。

コーポレートロゴに限らず、建築でも、装丁でも、電化製品でも。



色々あって大変そうですが、
デザイン業界の信頼が早々と回復しますように。

 

 

 

「スーパーロボット大戦MXポータブル」バンプレスト

 

PSPのゲーム、「スーパーロボット大戦MXポータブル」にかんたんしました。

 

www.suparobo.jp

 


まあ、不満はいっぱいあるんですが……。
(我慢してクリアした自分にもかんたんしました)

それでも面白かったし、2週目に進んでみようかなと思っています。

 

以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


PS2で発売された「スーパーロボット大戦MX」をPSPに移植したのが
このゲームになります。

元は2004年のゲームですから……第2次αと第3次αの間に販売されたようですね。


PSPですので、移動中とかにやるのにちょうどいいかなと思っていたのですが……。

 

 

このゲーム、とにかくテンポが悪い

まず敵のHPが妙に多い
たいして手強くないのですが、その割に時間だけはかかるのです。
元のPS2版をやっていないのですが、どうやら敵のHPをPS2の1.5倍に修正して
移植したようで……。
おかげで、主力級の攻撃を何発も何発も当てないと敵が沈まない。

ロードが長い
Wiz7(PS)やジルオールインフィニットプラス(PSP)で訓練されている私でも、
あーーーと思うくらいテンポを阻害されます。
キャラクターの表情が変わるたびに読み込み。
声付きのイベント(DVE)が発生するたびに読み込み。
○ボタンを押せばDVEを飛ばせるのですが、飛ばすのももったいないと思い、
読み込みがある度に「DVEかも?」と思って一拍待たねばならない。
戦闘に入ればまた読み込み。
攻撃中にキャラクターの表情が変わればまた読み込み。
おかげで戦闘アニメの口パクと声がまったく合っていないので、
ゴッドガンダムやファイナルダイナミックスペシャルの口上が滑稽なことに……。

MAP兵器の演出が長い
必ず戦闘アニメが入るうえ、1マス1マスゆっくりと爆発が進んでいく。
積極的に使う気が失せてしまいます。

シナリオのテキストも中途半端に長い(これはPS2と一緒なのでしょうが)。
エヴァラーゼフォンゼオライマーが出てくるととりわけ長い。
百鬼帝国の「いまがチャンスだから行ってこい」「百鬼ブラァァァイ!」の
テンポの良さを見習ってほしいです。
その割にテキストの出来はそこまでよくない。
クロスオーバーも部分部分では面白くても、全体で見ればそれほど……。
第3次αと似たようなクドさ、スッキリしなさ、とってつけた感。
その癖ステージクリア後のテキストはブツ切りされたり。
この完成度の低さ。
シナリオ関係の納期とかに問題でもあったのではないでしょうか。


以上のような要素が相まって、後半になってくると私の腕では
1話クリアするのに2-3時間かかります。

これは、1日1時間くらいしかゲームに充てられない私にはきつかった……。
全ステージクリアするのに4箇月くらいかかってしまいました。
世間はスーパーロボット大戦Vに夢中だというのに。
あっちはマジンガーzeroが出ているらしいのに。
マジンガーzeroいいよね……。
信長の野望201Xの来年のエイプリルフール企画で、
巨大虚空蔵菩薩ロボに取り込まれた三好長慶とか出てこないかな。

 

あと、初見殺しも多いです。

ゲーム自体の難易度はそこまで高くなくて、
最終ステージでも敵のHPがやたら多いだけで時間さえかければ
問題なくクリアできたのですが。
(ラスボスがMAP兵器を持ってないのが楽だった)

ステージ35「「心」を蝕むもの」。
電童が強制出撃するのですが、敵の増援が出た途端、
電童から「データウエポン」というNPCが飛び出して、敵に突っ込んでいくのです。
これが撃墜されるとゲームオーバー。
何も考えず電童を前線に出していた私は、データウエポンが即死して終了。
無念です。

ステージ36「ゼオライマー、暁に出撃す」。
自陣はドラグナー3機と、主人公のみ。
そのうち味方援軍が来ると思っていたら、来ない
ちなみに私はドラグナーをまったく育てていませんでした。
敵の増援もぽこぽこ出てくる中、味方勢のエネルギーと弾丸と精神が尽きて詰み。
援軍を前提にせず、序盤セーブしておきゃよかった……と後悔しても後の祭りです。

ステージ48「命の行方」。
初期の自陣はエヴァシリーズのみ。
イベントが起こってエヴァ初号機だけで第13使徒バルディエルのHPを
削る必要があるのですが、エヴァをまったく育てていない私は
序盤の雑魚でシンジ君の精神を使ってしまっていて詰み。
シンジ君の精神を温存してレベルと気力を上げておきゃよかった……と
後悔しても後の祭りです。

ステージ65「魂のルフラン(後半戦)」。
初期の自陣はエヴァ弐号機のみ。
相変わらずエヴァをまったく育てていない私は、
アスカ嬢がエヴァ量産機に屠られてゲームオーバー。
これはいかんと思って、武器と装甲だけ改造してあげて再トライ。
今度は順調にエヴァ量産機をしばいていったのですが、
プログレッシブナイフを使いまくっていたらエネルギーが切れてしまい、
ATフィールドを張れなくなって再びゲームオーバー。
おいおい、ATフィールドは心の壁じゃないのかよ。
いつからATフィールド展開にエネルギーが要るようになったのだ
3回目でエネルギーを温存しながら戦って、ようやくクリアしました。


とりあえず、ドラグナーエヴァをまったく育てていないと時々しんどいです。
始めてプレイする方は、この方たちを使った方が楽だと思いますよ。

なお、電童とラーゼフォンゼオライマーナデシコといった面々は
出番多めですが、育てていなくても何とかなりました。

 

 

私の最終的なスタメンは、こんな感じでした。


マジンガーZ(甲児)
グレートマジンガー(鉄也)
量産型グレート(さやか)
ブラックグレート(ジュン)
グレンダイザー(デューク)
ビューナス(ひかる)
ダブルスぺイザー(ボス)
TFO(マリア)
ゲッタードラゴン(リョウ)
ゲッターQ(ミチル)
バイカンフー(ロム兄さん)
Ζガンダムカミーユ
ΖΖガンダムジュドー
ゴッドガンダム(ドモン)
風雲再起(風雲再起)
マンダラガンダム(キラル)
スーパー系主人公


ダイナミック勢中心に、能力よりも好みで選抜しました。

このゲームは先に述べたように悪いところだらけですが、
機体はそれぞれ使っていて楽しかったです。
戦闘アニメーションもロードの長さや口パクと声のズレや画質の悪さに目を瞑れば、
非常に良質でした。


マジンガーはいつも通り硬くて反撃が得意な、使い勝手のよい連中でした。
BGMで「勇者はマジンガー」「いざゆけ!ロボット軍団」を聴けたのは嬉しい。
今作は合体攻撃のエネルギー消費が低いので、ダブルバーニングファイヤーや
トリプルマジンガーブレードの実用性が高かったのもありがたかったです。
気になる点を挙げるとしたら、ファイルナルダイナミックスペシャルで
反重力ストームを撃っただけのグレンダイザーさんが
使ってもないダブルハーケンを構えて格好つけてたことくらいです。

TFOはすごかったです。
マリアさんを乗せればラスボスの攻撃でも命中率0%ですからね。
ミサイルが20発では足りません。

ゲッターライガーが使いやすかったです。避ける避ける。
ハヤトさん格好いい。私もハヤトさんに嫌味言われたい。
あと、ゲッタードラゴンのダブルトマホークブーメランとシャインスパークが
ものすごく格好いいです。
戦闘アニメでは、歴代でもっとも優れたゲッタードラゴンだと思います。

ロム兄さんは射程距離とエネルギーの問題で無双キャラにはしにくいのですが、
存在自体がおいしいので愛用していました。
タイマン向きの性能だと思います。

Ζガンダムは正直弱かった……。
隠しキャラのディジェSE-Rが強いらしいので、入手しとけばよかったです。
病み上がりカミーユへの愛情だけで使い続けていました。
但し、Ζガンダムビームサーベルは一見の価値ありです。
斬り方もグレネードランチャーのダメ押しもいい。実にいい。

一方でΖΖガンダムは強い。
ジュドーも武装も優れています。
とりわけジュドーは覚醒をSP55で使用可能
カミーユが90、リョウだと100ですから、これはずるいくらい便利です。

ゴッドガンダムもロム兄さん同様、射程とエネルギーの関係でタイマン向きです。
めちゃくちゃ強い訳ではありませんが、序盤から終盤まで安定していました。
BGMが「最強の証 ~キング・オブ・ハート~」なのもいい感じ。

マンダラガンダムは戦力的にはいまいちですが、
キラルさんがシナリオの要所要所で決めてくれるので嬉しかったです。
座頭市とかブラインドメイスとか、盲目の剣客キャラってつい贔屓してしまいます。

主人公は影薄いし搭乗機も絶妙にダサいのですが、
二人ともいい人という感じで好感を持ちました。
目立ちすぎない程度に強くて活躍していました。

あと、戦艦のネェルアーガマナデシコも優秀でした。
SFCの第3次とかの時代に比べれば、戦艦も随分強くなったものです。

 

いいところをもうひとつ言うとしたら、BGMです。
とりわけステージBGMにけっこう耳に残るメロディが多くて気に入りました。
例えば「試される戦略」とか、実にゲームBGMっぽい。
ウィンキー時代に比べ、バンプレストはステージBGMがもうひとつな印象でしたが、
このMXはいいですね。

 

以上、不満点はいっぱいあって、決して、まったく万人向きではないのですが、
戦闘アニメがよかったりBGMがよかったりダイナミック勢が多く出ていたり、
なんだかんだでスーパーロボット大戦というゲーム自体が面白いということもあって、
私は結局クリアまでプレイし続け、2週目に進もうとしています。
資金やPPの引継ぎができる2週目なら、もう少しさくさくクリアできるでしょう。

 

「スーパーロボット大戦MXポータブル 2周目」バンプレスト - 肝胆ブログ

 

 

いつの日か、ダイナミック勢の合体攻撃に
「ハイパーロボ ダイナミックサーガ」が追加されますように。

 

 

「羆嵐 感想」吉村昭さん(新潮文庫)

 

吉村昭さんの小説「羆嵐(くまあらし)」にかんたんしました。

 

www.shinchosha.co.jp

 

 

wikipediaニコニコ大百科でも「閲覧注意」として名高い、
三毛別(さんけべつ)羆事件」を題材にした物語です……。

 

 

吉村昭さんの小説を時々買って読むようにしているのですが、
この小説についてはグロい・怖いことが確定しているので
いままで手を出してきませんでした。

それが、新潮文庫の「紅白本合戦」という能天気な帯をまとって
本屋で平積みされていたため、つい手にしてしまったのですが……。


読んでみて、ゾクゾクが止まりませんでした。
序盤から終盤まで、緊張感が途切れることがない小説です。
息苦しくなるほどに……。

読むのを途中で止めても、ゾクゾクが身体から抜けないのです。
安心するには読み終えるしかない、というような気持ちになって、
一気に読み終えてしまいました。


以下、軽くネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 


物語のあらすじ。


序盤で羆の猛威が集落を襲います。
グロシーンも一部含まれますが、それ以上に羆が怖すぎて、
気持ち悪いというより身体が冷え冷えしました。

中盤は羆討伐隊が結成されるものの、たいした成果をあげられずに
烏合の衆と化してしまいます。
あまりにも凶暴強大なモンスターと対峙した時、
人の「数」がいかに当てにならないものなのかを、
嫌というほど見せつけてくださいます。

終盤ではひとりの猟師が登場し、羆を追い詰め、遂に仕留めます。
そして、羆に襲われた集落はその後……滅び去ります。

 

この小説の秀逸なところなのですが、約250ページのうち、
羆が登場するページは1割程度なんですよね。
後は全部、被害を受けた人々の行動・心理描写なんです。

目の前にいない羆の幻影に人々は惑い、恐怖し、統率を崩します。

2日間に6人(数え方によっては7人)の命を奪った羆は、
さながら自然の化身、荒ぶる神々が顕現したかのようです。
地域の人々はパニックを起こし、女・子ども・老人は海へ向かって逃げ惑います。
討伐隊に組み入れられた男たちも、羆の気配があれば恐慌状態となって
他者を押しのけ便所や梁の上に身を隠してしまいます。
更には、羆が退治された後も、人々は次々と集落から去っていき、
せっかく開拓した集落はあっという間に廃村となってしまうのです。

羆は死してなお恐怖の記憶となって土地に留まり、
コミュニティを破壊したのでした……。


人間が自然の前に敗れた、「開拓の失敗史」という見方もできる本かと思います。

そもそも、被害を受けた集落が開拓村ということも読むまで知りませんでした。

 

印象的な記述があります。
犠牲者を葬ろうとする場面などで、

 

土との融合は、植物の種子が地表に落ちるように死体を土に帰することによって深められる。人間の集落には、家屋、耕地、道とともに死者をおさめた墓石の群が不可欠のものであり、墓所に立てられた卒塔婆や墓石に備えられた香華や家々でおこなわれる死者をいたむ行事が、人々の生活に彩りと陰翳をあたえ、死者を包みこんだ土へのつつましい畏敬にもなる。

 

六線沢の者たちは、村落にとって初めての死者である島川の妻と息子の遺体を懇ろに回向し、埋葬しなければならぬ義務を感じた。遺体を土に帰すことは、入植者であるかれらが土に根を張ることをも意味している。


といった文章が挿入されています。
私はこういう吉村昭さんの言い回しが好き。

この「羆嵐」とは、「人が根付けない土地もある」「根付けなかった事例がある」
ということを教えてくれる作品なのです。
人口が減っていくこの日本列島を前にして、含蓄があるように思います。

 

 

「開拓」「フロンティア」って簡単に使われる言葉ですが、
本当は羆に出遭う覚悟がセットで必要なのでしょうね。

興味も湧いたし、屯田兵や西部開拓史について学んでみようかなあ。

 

 

 

 

最近、東京都荒川区吉村昭さんの記念館ができたそうです。


一度は行ってみたいな。

願わくば繁盛しておりますように。

 


('17/4/30追記)
繁盛してました。

東京都荒川区の「ゆいの森あらかわ/吉村昭記念文学館」 - 肝胆ブログ