肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「三好康長(笑岩/咲岩)さんが有終の美を飾った週刊ビジュアル戦国王(100)」総監修:小和田哲男さん(ハーパーコリンズ・ジャパン)

 

週刊ビジュアル戦国王の最終号、三好康長さんを筆頭に三好一族が大トリを飾っていてかんたんしました。

 

sengoku-oh.jp

 

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康長さんを筆頭に、三好義興さん、三好義賢さん、篠原長房さん、三好長逸さん、三好政康さん、岩成友通さん……と三好一族が勢ぞろい。

(紹介されている内容は定説ベースです)

 

ここにきてどんな読者層を対象にしていた雑誌だったんだろうと思わざるを得ない采配ですね(笑)。

大半の読者からしたら「三好●●って何人おんねんややこしい!」くらいにしか思っていただけないのではと不安になってしまいます。

 

 

 

とは言え、確かに三好康長さんは戦国時代の濃密な部分を味わい尽くしたという意味では「戦国王」の名に相応しい人物の一人かもしれません。

きっと義興さんや実休さんも、康長さんの方が目立ってても納得していただけるのではないでしょうか。

 

 

三好康長さんは三好元長さんの弟とされていて、細川家の内乱、三好元長さんの活躍と蹉跌、三好長慶さんの栄達と悲哀、三好家の分裂と内乱、織田信長さんの台頭と横死、長宗我部元親さんの躍進、羽柴秀吉さんの君臨までのすべてを現場近くで見てきたお方であります。

三好政康さん大坂の陣に参加説が風前の灯火であるいま、康長さんは畿内戦国史織豊時代を繋ぐ貴重な人材だと言えるでしょう。

(実際「夏草の賦」や「センゴク」では格好良く扱っていただいていました)

 

 

 

私も康長さんが好きです。

 

康長さん、一説には三好元長さんの評判を大きく落とした「柳本甚次郎さん殺害事件」の実行犯かもしれないそうですが(一秀さんが正当? 若き康長さんが同行していた可能性もあるのかなあ)。

「三好元長さんとは何者なのか」信長の野望201X '18/1の勾玉交換武将より - 肝胆ブログ

 

そんなヒットマンぽい噂をお持ちでありながら、三好長慶さん時代は比較的おとなしくされていたっぽいのがまず面白い。

元長さん死後の三好家を簒奪しようとする素振りもなく、かといって長逸さんのように政に戦にと使い倒されることもなく。

実休さんや一存さんが亡くなり人材の層が薄くなってきてから、ようやく存在感が強くなってきた感。

 

その割に長慶さんの死後は、三好一族の重鎮としてドンと構えて久秀さんを追い詰めたり信長さんに抗い続けたりと武闘派で鳴らしたかと思えば、上手いタイミングで信長さんに降って重宝されるという老獪な一面も見せはって。

 

されども織田信孝さんや羽柴秀次さんを養子に迎えていよいよ四国で三好再興や待っとれ長宗我部……からのどうもハッピーエンドで終わり切れない無常感ある歴史からの退場。

 

 

いったいどの康長さんが一番素に近いのか、いまいち分からないんですけれども、そのミステリアスかつ隠れ実力者お爺ちゃんな感じがなんとも素敵な気がするんですよね。

多面性のある、あるいは渋みのある人物イメージとでも言いますか。

どなたかが康長さんの人生をもっともっと掘り下げてくれますように。

学術的にも物語的にも。

 

 

 

 

最近、小和田哲男さんや小和田泰経さんが三好家に優しくてありがたいですね。

sengoku-oh.amebaownd.com

 

 

'18.6月号の歴史人(戦国時代の全国勢力変遷地図)でも三好家をおおきく取り上げてくださっていましたし。

研究者や執筆者によって細かな解釈の違い、アピール方法の違いはあると思いますが、穏便に知名度が上がっていくならまずはいいなあと思います。

 

 

 

 

「貸出妻M単行本感想」松本救助先生(ゴラクエッグ)

 

「貸出妻M」が単行本となり、まとめて読むとまことに倒錯した味わいが素晴らしい作品となっていてかんたんしました。

 

貸出妻M - 株式会社日本文芸社

 

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以前1-3話までを取り上げたこともあります。

「貸出妻M 1-3話」松本救助先生(ゴラクエッグ) - 肝胆ブログ

 

かつての浪漫美に富んだ時代の日本を舞台に、不倫不貞寝取られを繰り返しながら愛を確認し合う夫婦の物語。

 

 

作者はモーニングで「眼鏡橋華子の見立て」が話題になっている松本救助さんです。

眼鏡橋華子の見立て/松本救助 【第1話】 王様のメガネ - モーニング・アフタヌーン・イブニング合同Webコミックサイト モアイ

 

あの漫画もズレた価値観と華子さんの艶美が注目されていることかと思いますが、掲載誌がモーニングということもあって華子さんのいかがわしい情事のような直接的なシーンは出てこないですよね。

フェチズム的角度から焦らしてくる類の構成ですから困っている人も多いことかと。

 

大丈夫です。

松本救助先生のエロを読みたい方はこの「貸出妻M」を読みましょう。

単行本1冊を通してずっとエロいので安心してください。

 

 

 

4-6話は急展開の連続で面白かったですよ。

本筋の退廃もたぶん狙ってやっている笑える場面も優れた“勢い”を感じます。

 

4話では主人公の鳴子さんがついに偽物であることが明らかとなり。

 

5話では旦那側の竹本さんが鳴子(偽)さんが他の男に抱かれているのを見ながら

「ありがとう」

「私をわかってくれて…」

「ありがとうございます……!」

 歓喜の涙に咽んだり

 

最終話の6話では1-5話までの流れがまさしく倒錯して陰陽太極図のような密結合夫婦に行き着いたりと。

(ミチ子さん登場時背景の黒太線で描かれた薔薇が好き)

 

 

もともと単行本1冊分の構成を踏まえて全6話がつくられているようで、昭和前中期の傑作映画を1本見終わったかのような完成度を味わえました。

松本救助先生ならではのやや狂った美しさに彩られた画面作りの効果が絶大で、これはいかがわしい耽美愛の物語として語り継がれるべき作品になっている気がします。

 

発行部数も少なさそうですし、早めに確保しておくことをおすすめしますよ。

 

 

単行本おまけの変態編集者木次(きすき)さんのエロ漫画も楽しかったです。

妙なリアリティと人間臭さがありまして。

モデルでもいるんでしょうかね。

 

 

 

いろんな愛があろうことかと思いますが、

「君じゃないと私は救われない」

「私は狂ってしまったわけではなく本当の私に出会っただけだった」

 

ようなありようにまで行ってしまうと満足度高そうだなあ。

まあ狂ってるんですけどねこの夫婦。

 

愛とは、夫婦とは、救いとは、解放とは。

そんな視点を深掘りたい人にもおすすめです。

 

 

 

松本救助先生の短編いいですね。

また何かしらの媒体で尖った作品を発表してくださいますように。

 

 

 

「ドカせん(ドカコック続編)1話感想」渡辺保裕先生(週刊漫画ゴラク)

 

駅のキヨスクの雑誌コーナーに京橋建策さんがいらっしゃって我が目を疑いましたがどうやら現実の出来事に違いなくかんたんしきりでした。

 

www.nihonbungeisha.co.jp

 

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ドカコックが戻ってきてくれた……!!

なぜか教師ものになって……? と思ったら内容はドカコックのままでしたが(笑)

 

これはグルメ漫画界の勢力図が一変してしまいそうです。

ドカコックを知らずにグルメ漫画は語れないぜと声を大にして私は言いたい。

 

 

 

ドカコックは様々な雑誌で不定期読切連載されていたグルメ漫画で、謎のカロリーみなぎる描写が一部の読者の熱烈な支持に繋がり、いまではカルトな人気を誇る伝説のドカ作品であります。

 

全国の工事現場をさすらうドカコックこと京橋建策さんが料理をふるまえば、現場のドカの皆さまが「ドカうまーーーーッ!!!!!!」とシャウトして元気いっぱいに働き始め工事は必ず大成功するんだよというドカ伝説を教えてくださる内容になっています。

 

 

 

特長はドカケレン味あふれる名台詞と熱作画の数々。

 

コロッケをつくるために建策さんがジャガイモを「ドドドドドド」と叩き始めれば、

「ん?」

「!?」

「こ…この音…?」

「シッ!!」

「耳を澄ますんだッ!!」 

「この音…」

「このリズムは………?」

「そうや」

「腹の底に響いてくるこの音は……」

「ランマーーだッーー!!」

「ランマーのリズム…!!」

「そうやランマーのリズムと一緒や!!」

「こ…これはオレら道路屋の魂に響く音だ…ッ!!」

「ドカのソウル…ソウルミュージックじゃーッ!!!」 

 

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などとモブのドカたちが騒ぎ始め、

建策さんは建策さんで

「イモは定礎!! 形を完全には潰さぬよう叩くッ!!」

 

などとノリノリで調理しはるのです。

 

みなまで語りませんが毎度毎度そういう流れの漫画です。

 

 

ちなみに私のイチ押しは「浪花の摩天楼」編です。

「あれはッ!?」

「あのお玉の動きはあれやッ!!」

油圧ショベルやッ!!」

「英語ではエクスカベーターやーッ!!」

「ワイらの力を何百…いやなん千倍にアップさせる夢の機械やッ!!!」

 

というモブドカたちの騒ぎようがとてもキュートなのです。 

 

 

 

そんな伝説のドカ料理漫画、このまま伝説となって消えていくのだろうとばかり思っていましたが、なんと週刊漫画ゴラクに帰ってきてくれました。

 

しかも、精密工事の出来栄えの如く1ミリもズレていないいつも通りの仕上がりで!

 

「チャーシューの固まりは山留め壁」

「そしてナルトとネギは逆打工法!!」

「まとめて刻むのは配筋と結束…熟練鉄筋工の手練の技!!」

「熱したラードで刻んだ具材を…」

「炒めるのはコンクリート流し込み!!」

 からの

コメがまるで瀧を昇る龍の如し……

いや…違う

これは…

地下から地上そして屋上までをも支配する……

高層建築現場の必須重機(マストヘビーエキップメント)――――

タワーークレーーン!!

「塩コショウうまみ調味料で味を整え」

「ナベ肌に醤油をまわし入れ香ばしさをプラス」

「最後のひとあおりはUTOK(社外検査OK)!!

 

という流れがもうたまらんのですよ。

結局何を料理したのかとか詳しいストーリーの中身とかは伏せますが、このライブ感はぜひ誌面で確認いただきたいと思います。

 

 

 

来週から教師ものになるかもしれませんがドカ教師のイメージが湧きません。

ノブナガ先生とドカ先生の人気争いでも仕掛けるつもりなんでしょうか。

たぶん京橋建策さんは統率97武勇98くらいの実力をお持ちなのでさすがのノブナガ先生でもかんたんには圧倒できない気がしますね。

率いる配下の質は一般高校生と屈強ドカ勢ということで大差がありますし。

 

 

なんしかドカせんが単行本化されるほどには続いてくれますように。

頭のおかしい人が実写ドラマ化とかしてくれないかなあ。ゼネコン協賛で。

 

 

 

今週のゴラクは、ついに浪速のデリヘル王さんも覚醒しはりましたし必読性が高かったですよ。

 

 

「ドカせん全3巻 名セリフ集」渡辺保裕先生(週刊漫画ゴラク) - 肝胆ブログ

 

 

東京駅グランスタ「eashion(イーション)の山形育ちのハンバーグ御膳」

 

移動時にグランスタeashionで買った「山形育ちのハンバーグ御膳」が思わず「おっ」というくらいうまくてコスパに優れていてかんたんしました。

 

www.eashion.jp

 

 

eashionはイベリコ豚の豚重(豚丼的な甘辛ダレのやつ)で有名なお店ですね。

豚重は以前食べたことがあって、もちろん大変おいしかったのですが。

 

今日はひき肉を食べたい気分だったのでハンバーグ御膳を買ってみたのです。

値段は確か1,000円ちょいでした。

 

 

ハンバーグ弁当というと一般的には茶色いハンバーグに茶色いデミグラスソースやおろしポン酢がかかっているイメージがあって、そういうオーソドックスなハンバーグも私は大好物なのですけど……

 

こちらeashionのハンバーグはまっ茶っ茶ではなく、やや白っぽいビジュアル。

たぶんそんなことはないのでしょうがカロリー低めなんじゃないかと思い込めます。

 

ソースは別添になっていて、レモンドレッシング?といったテイストのもの。

こちらも実際そうではないのでしょうけどカロリー低めなんじゃないと思い込めます。

 

そういう普通のハンバーグに比べたら「白っぽい」「あっさりそうな」見栄えのハンバーグがご飯の上にドンと乗ってはるのです。

 

 

ほいで蓋を開けて食べようとすると、このハンバーグが思いのほか肉厚でして。

世の中受けしそうな美白・ドレッシング系ソースで人を釣っておいて、こちらさん中身はものすごく野獣系なんじゃないかという予感がするのですよ。

 

 

で食べてみたらですね。

これが超肉々粗挽きうまいのです。

 

肉厚の噛みごたえ。肉!

粗挽きの幸せ食感。肉!

こぼれ出でる肉汁。肉ゥ!

 

シンプルに元気が出てくる味です。

ハンバーグっておいしいな、と再認識させてくれます。

 

 

個人的な外食中食経験に照らし合わせれば、2,000円くらい取られても不思議ではない味・ボリュームだと思うんですよね。

 

それが1,000円ちょいでご飯とセットで食べられる。

(ただし野菜はほとんど入っていない)

 

これはコスパいいなあと。

安くはないけどコスパいいなあと感じました。

 

 

写真も撮っておらずに申し訳ない紹介記事ですが。

 

 

 

駅弁といえば幕ノ内系やお寿司系やとんかつ系やサンドイッチ系や様々なジャンルが激烈な競争をしているマーケットです。

その中で、東京駅で肉系を買いたいときはこれやな、と心に刻みました。

 

東京駅で駅弁を選ぶなら地下のグランスタはおすすめですよ。

前に取り上げたおこわ米八も出ていますし。

おこわ米八の「おこわいなり」 - 肝胆ブログ

 

 

これからも素敵な驚きのある駅弁に出会えますように。

 

 

「僕!!男塾の新男塾名物」原案:宮下あきら / 原作:宮川サトシ / 作画:近藤和寿(Webゴラク)

 

Webゴラクの男塾特設ページでやっている「僕!!男塾」のコミックスに載っていた「新男塾名物ネタ」が面白くてかんたんしました。

 

(表題は人数が多いので敬称略です)

 

www.nihonbungeisha.co.jp

 

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情熱大陸の漫画などで有名な宮川サトシ先生が原作をされているそうです。

「やつがれ!!おとこじゅく」と読みます。

 

それにしてもゴラクは男塾スピンオフを量産して何処を目指しているのでしょう。

 

 

 

内容はネットやアメトーク!などでネタにされがちな男塾の突っ込みどころを突っ込んでいくような男塾ルポ漫画といった感じです。

某三号生筆頭の身体のサイズネタとか。

 

それはそれでもちろん面白いのですが、それ以上に作者が考案された「新男塾名物ネタ」がくすくす笑えて楽しかったです。

 

男塾名物とは、「油風呂」とか「直進行軍」とかそういうやつです。

男を試す的なアレです。

 

 

このコミック内で披露されていた新男塾名物ネタをいくつか紹介すると……

 

男塾名物「ハチミツ監禁のどあめ」

 口の中にスズメ蜂を入れ息を限界まで止めて蜂を窒息死させる

 

男塾名物「影慶毘遺48毒手会」

 48カ国 各国の毒手自慢が握手をし合い最後まで生き残っていた者が
 世界のセンターとなるのである!

 

男塾名物「池の水ぜんぶ飲む」

 タレントが見たこともない生物を発見したりしている横で
 ひたすら飲み続けるのである!

 

 

みたいな感じです。

個人的にはAKBと影慶先輩をかけた毒手会が一番好き。その発想はなかった。

 

こういうマンガ好き同士の深夜トークで思いつくようなネタが男塾っぽい一枚絵とともに掲載されていて、日々の暮らしに疲れた私の頭に何だか無性に染み込んできたんですよね。

“男”を分けてもらえた気がします。

 

 

 

スピンオフ漫画業界が元気な昨今、公式が原作テイスト絵で原作に突っ込んでいくスタンスのギャグ漫画は良質なものが多い印象がありますね。

 

ゴラクと男塾がますます元気でありますように。

真!!男塾もいい感じに展開しますように。

 

 

 

 

「失敗の本質」戸部良一/寺本義也/鎌田伸一/杉之尾孝生/村井友秀/野中郁次郎(中公文庫)

 

「失敗の本質」という本が再び書店でプッシュされていたので買って読んでみたら太平洋戦争のつらい経緯描写がいっぱい載っていて暗い方向にかんたんしました。

 

(人数が多いので記事タイトルは敬称略)

 

 

失敗の本質|文庫|中央公論新社

 

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太平洋戦争について、そもそもの資源不足とか戦略欠如とかは一旦置いておいて、個々の作戦遂行時の失敗事例を詳細に取り上げ、その上で日本軍の組織的課題を解きほぐしていくという構成の本になっております。

 

同じ日本人の組織の失敗を扱う本ですので、企業など現代日本組織にも共通する要素がいろいろ見受けられまして、これは参考になるわいと重宝がられて昭和59年発行の本でありながらいまも盛んに読まれている訳ですね。

 

 

 

この本で語られている日本軍組織の「失敗の本質」については、文庫版あとがきの以下の部分が分かりやすいかと思います。

 

われわれにとっての日本軍の失敗の本質とは、組織としての日本軍が、環境の変化に合わせて自らの戦略や組織を主体的に変革することができなかったということにほかならない。戦略的合理性以上に、組織内の融和と調和を重視し、その維持に多大のエネルギーと時間とを投入せざるを得なかった。このため、組織としての自己革新能力を持つことができなかったのである。

 

それでは、なぜ日本軍は、組織としての環境適応に失敗したのか。逆説的ではあるが、その原因の一つは、過去の成功への「過剰適応」があげられる。過剰適応は、適応能力を締め出すのである。近代史に遅れて登場したわが国は、日露戦争(一九〇四~五)をなんとか切り抜けることによって、国際社会の主要メンバーの一つとして認知されるに至った。が同時に日露戦争は、帝国陸海軍が、それぞれ「白兵銃剣主義」、「艦隊決戦主義」というパラダイムを確立するきっかけともなった。その後、第一次世界大戦という近代戦に直接的な関りを持たなかったこともあって、これらのパラダイムは、帝国陸海軍によって過剰学習されることになったのである。

 

組織が継続的に環境に適応していくためには、組織は主体的にその戦略・組織を革新していかなければならない。このような自己革新組織の本質は、自己と世界に関する新たな認識枠組みを作り出すこと、すなわち概念の創造にある。しかしながら、既成の秩序を自ら解体したり既存の枠組みを組み替えたりして、新たな概念を創り出すことは、われわれの最も苦手とするところであった。日本軍のエリートには、狭義の現場主義を超えた形而上的思考が脆弱で、普遍的な概念の創造とその操作化ができる者は殆どいなかったといわれる所以である。

 

自らの依って立つ概念についての自覚が希薄だからこそ、いま行っていることが何なのかということの意味がわからないままに、パターン化された「模範解答」の繰り返しに終始する。それゆえ、戦略策定を誤った場合でもその誤りを的確に認識できず、責任の所在が不明なままに、フィードバックと反省による知の積み上げができないのである。その結果、自己否定的学習、すなわちもはや無用もしくは有害となってしまった知識の棄却ができなくなる。過剰適応、過剰学習とはこれにほかならなかった。

 

400ページに及ぶ本書を著者自身の手でよく要約されていると思います。

読んでいて胸が痛くなったり自身の所属組織の黄昏を憂いたりした方もいるのではないでしょうか(笑)。

 

 

 

もうひとつ、本著のポイントとして日本軍と米軍それぞれの組織を比較している箇所がありますのでそちらも引用しておきます。

 

分類 項目 日本軍 米軍
戦略 1 目的 不明確 明確
2 戦略志向 短期決戦 長期決戦
3 戦略策定

帰納
(インクリメンタル)

演繹的
(グランド・デザイン)
4 戦略オプション 狭い
ー統合戦略の欠如ー
広い
5 技術体系 一点豪華主義 標準化
組織 6 構造 集団主義
(人的ネットワーク・プロセス)
構造主義
(システム)
7 統合 属人的統合
(人間関係)
システムによる統合
(タスクフォース)
8 学習 シングル・ループ ダブル・ループ
9 評価 動機・プロセス 結果

 

 

詳細は読んで確認してくださいという感じですが、先にこういう視点を頭に入れておくと一章の具体失敗作戦事例についても理解がスムーズかもしれません。

 

 

この本の後半、二章と三章については、上で挙げたようなポイントを丹念に解説いただける内容になっております。

時間がない方など、二章と三章だけを読んで「分かった気になる」人も多いのではないかと思います。

 

 

 

その上で、あえて私は「一章」を精読することをおすすめしたいと思いました。

一章で取り上げられている具体失敗事例……

 

 1 ノモンハン事件

 2 ミッドウェー作戦

 3 ガダルカナル作戦

 4 インパール作戦

 5 レイテ海戦

 6 沖縄戦

 

 (こうして挙げるだけでも気分が重くなるやつばかりですが)

 

を読んで、ある程度でも「追体験」をした方が二章・三章の内容が身につくと思いますし、理解や現実への応用もしやすいのではないでしょうか。

 

もちろん、こうした太平洋戦争の各作戦については現代も研究が続いておりますので、この本で挙げられている作戦の背景や推移については昭和50年代時点の分析であることは含んでおく必要があります。

大きくは現代でも通用する定説ベースですので、詳しい方以外は気にならないかもしれませんけどね。

 

 

 

 

以上が本に書いてあることのざっくり概説で、ここからは私の感想です。

 

おおむね納得感の高い内容でとても参考、刺激になりましたが、個人的には「では、どうして日本軍の組織課題がこのように醸成されていったのか」という点の掘り下げが少し薄いかなと気になりました。

上で引用したところにも書いてありますが、日露戦争あたりの成功体験にその「因」を置きすぎているようなきらいが。

 

 

この本を読んで思い描いた因果……あくまでイチ素人の妄言ですが……、こうした日本組織の特質・課題は、日本人の気質や文化というより、「明治維新期に自覚した“資源不足”」によるところが大きいんじゃないかなと考えてしまいました。

(もはや本の内容から離れてしまっています)

 

アメリカやロシア/ソ連、ヨーロッパ勢と比べた時の我が国の圧倒的資源不足感。

 

当著で挙げられた日本組織の課題、「短期決戦主義」や「一点豪華主義」、「戦略オプションの狭さ」といった要素は、そもそも資源不足の我が国においては「一つのことを徹底的にやる」以外の道がなかったんじゃないのかなと思えるのです。

 

例えば江戸時代なら、比較対象が海外というよりは他藩ですから、日本国内でもある程度の“多様性”を保持しておくことってできたんじゃないかなと。

新日本風土記で取り上げられるような地域地域の伝統文化って江戸時代以前に由来するものが多いじゃないですか。

 

それが、明治以降は世界の大国の中で日本全体の舵取りをする必要が出てきましたので、資源が足りない(人口だけはけっこうありましたが)日本は多様な戦略にトライする余裕なんてもとよりなく、白兵戦なら白兵戦、艦隊戦なら艦隊戦といった一点に特化していくしかなかった、長期デザインなんて検討する体力すらなく短期決戦でコトを決めるしかなかった……という理解の方がしっくりくるんですよね。

 

日露戦争だって、日本海海戦は確かに大勝利しましたけど、戦争全体は日本の戦費枯渇により屈辱的講和(当時の価値観ベース)で幕を閉じたじゃないですか。

そして、太平洋戦争後の高度成長だって「一つの経営スタイルを極める」で頑張ってきて軌道修正できずに低成長時代に突っ込んでいっちゃったじゃないですか。

 

 

何が言いたいかというと、この本で挙げられたような「日本組織の特性」って、読者はついついリーダーや組織員の人格とか、組織内で受け継がれていた文化風土とかの攻撃・反省に目を向けがちなんですけど、そうやって組織的現象に失敗原因を求めすぎるのも実は不健康で、真に直視すべきは不足しがちな資源とその配分のところなんじゃないのかなあと。

 

あえて組織課題として言うなら、伝統的に日本人は「資源」に関わる情報を上層部などで秘匿しがちで、多くの人に「資源不足」へ向き合うことをさせてこなかったところこそが一番反省すべきじゃないかなあと。

上層部は資源確保や資源不足を割と正確に把握して戦略を立てるんだけど、下に降りてくるころには「あそこを占拠せよ」「現場のマンパワーだけで何とかせよ」「大事なのは気合いだ」だけになっている感。

 

現代企業においても会社全体の収支とか将来予測とかはきちんと説明せずに現場には「売上目標必達」「人を減らせ」「物件費も減らせ」「現場のマンパワーだけで何とかせよ」「大事なのは気合いだ」だけになっている感。

 

 

日本は伝統的に「人」しか資源がないとよく言われますが、そんなけ優秀な人が現場にもたくさんいるんだから、もう少し資源に関する情報を共有して一緒に考えようよとやっても大丈夫だと思うんですけどね。

資源の現状を把握したうえで「一点豪華戦略しか取りようがない」「あれもこれもはムリ」ということを納得してからの方が、現場もよい知恵が湧きそうなものです。

 

極端なことを言えば、高度成長やバブルのあの頃に「とはいえ我々は“徹底”は得意だけど“方向転換”は苦手だ、色んなオプションを考えたり試したりするほどの資源の蓄積はないから。ハハハ」ということをあらかじめ把握しておければなあ……と(笑)。

 

太平洋戦争も、「資源の有効活用」と「資源の効率的確保」という一番大事なところを「大本営と現場と国民とでどこまで共有できていたのか、できていなかったのか」という視点でもう少し掘り下げたやつを勉強してみたいなあという気持ちになりました。

 

誰かそういう角度の良著を知っていたら教えてください。

 

 

 

という感じに、組織論に失敗の本質を求めにいく本を読んでいながら「なんでそういう組織になったのか」の方が気になってしまった読後感でした。

そんで、私個人としてはそもそもの資源不足(対大国比)あたりが現代に続く日本組織文化のルーツじゃないかなあと思った次第です。

繰り返しですけど素人意見ですのでご留意ください。

 

 

 

 

もうひとつ、私的な心情を。

 

私は歴史好きですが、やっぱり近現代史……当事者やその遺族が生きている時代……の話は読んでいてつらいなあと思いました。

まして失敗事例を集めている本な訳ですから。

太平洋戦争頃は、良くも悪くも私の乏しい想像力でもけっこうリアルに想像できてしまう時代なんですよね……。

 

一章の具体失敗作戦を読んでいると、どれだけ多くの人の命や努力や思いが無下に……という感情が湧いてきてとにかくつらかったです。

 

想像力に限界があるおかげで、江戸時代以前の歴史はけっこう客観的に向き合えたりもするのですが(我ながら自己中なものです)、近現代史はつらい……。

気軽に消費できない……。

その代わり学んだ内容は鮮烈な印象として残るのだけれど……。

 

 

歴史とお付き合いするって難しいものですね。

 

 

 

なんか本の主題から離れることをいろいろ書いてしましましたが、それだけ読んだ人に様々な思惟を促してくれる良著なのだと思います。

誰が読んでも書いてある内容は同じなのだけど、そこから得るものは読者それぞれで大きく違う。

そういう類の本ではないでしょうか。

 

 

 

失敗の記憶や組織の性質にある程度はとらわれつつも、人がよりかろかろと飄々と生きていけますように。

 

 

「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」ジェームズ・R・チャイルズさん / 訳:高橋健次さん(草思社文庫) - 肝胆ブログ

 

 

「鍋島直茂」岩松要輔さん(戎光祥出版 シリーズ【実像に迫る】004)

 

戎光祥出版の実像に迫るシリーズの「鍋島直茂」が端的に分かりやすく彼の生涯を解説してくださっていてかんたんしました。

 

www.ebisukosyo.co.jp

 

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信長の野望・大志の鍋島直茂さんが格好よかったのでつい買ってしまいました。

信長の野望・大志「龍造寺隆信と龍造寺家(1570年信長包囲網)」&「鍋島直茂言行録」 - 肝胆ブログ

 

 

あんまり九州戦国史朝鮮出兵には詳しくないので、この本で基本的なことからおさらいできてためになりました。

 

内容をオフィシャルHPの紹介から引用させていただくと、

【目次】
はしがき 口絵

第一部 龍造寺の仁王門
 第一章 鍋島氏の由緒と勢力拡大 謎を秘めた鍋島氏の起こり
     /少弐氏の没落と鍋島氏の由緒
 第二章 龍造寺隆信の客将となる 千葉胤連の養子となった直茂
     /龍造寺隆信の台頭と直茂の初陣/隆信と激戦をくりひろげた
     宿敵神代勝利
     /大友親貞を討った今山の夜襲
     /肥前国内を統一する
     /筑後・肥後への侵入/蒲池鎮並の反乱を鎮圧
 第三章 揺れる龍造寺家 嫡子勝茂の誕生と隆信の隠居
     /動揺する龍造寺家中
     /島津氏との雌雄を決した島原の戦い-隆信の戦死-
     /戦後処理を差配し筑後を確保

第二部 大名としての自立
 第一章 秀吉の島津征伐・朝鮮出兵の直茂 秀吉に好を通じる
     /風雲急を告げる九州情勢
     /秀吉の島津征伐に従軍し龍造寺家より独立
     /肥後国人一揆を討伐
     /龍造寺氏に代わり肥前の国政を任される
     /急いで進められた朝鮮出兵の準備
     /快進撃をつづけた序盤戦
     /和平交渉により京城を撤退
     /秀吉から帰国命令を受けるも動かず
     /ふたたびの朝鮮出兵-慶長の役の開幕-
     /朝鮮で奮戦するも秀吉の死により帰国
 第二章 関ヶ原から大坂の陣とかけぬけた晩年 上杉景勝討伐に伴い
     九州の守りを固める
     /柳川城立花宗茂を攻める
     /徳川政権下における龍造寺氏との関係
     /官制下佐賀城の五層の天守
     /大坂の陣に参陣した勝茂
     /直茂の死と処世訓

主要参考文献/基本資料集

鍋島直茂関連年表

 

という構成になっております。

 

鍋島直茂さんの生涯を素直に史実ベースで辿っていく流れになっていますので、キャラクター性の強い逸話などは載っておりませんし、龍造寺隆信さんなど周辺重要人物もサラリとした紹介に留まっております。

 

全部で100ページ足らずのボリュームで、淡々と史実事績だけを追っていただくスタンスのシリーズ本でして、そのシンプルさが初学者にとってありがたいんですよね。

 

ボリュームが少ない一方で、印刷の仕上がりがきれいで、関係文献や史跡の写真がよい品質でたくさん掲載されているのがまた嬉しいのです。

肥前名護屋城図屏風」の写真なんかとても見応えあります。

 

この「実像に迫る」シリーズは短いのでついつい立ち読みで済ませてしまいたくなるのですが、いい本なのできちんと買いましょう。

 

 

 

鍋島直茂さんの生涯……龍造寺家の武将として大活躍していた時代、いち早く豊臣秀吉さんに誼を通じる外交センス、朝鮮出兵加藤清正さんたちと最前線で戦っていた事績、そして徳川政権下での肥前国主化・主家克服……という流れをあらためて学ばせていただきますと。

 

個人的に印象に残ったことが三つ。

 

一つは外交センス

大友家への対抗上、代々龍造寺家は大内家・毛利家という中国地方の覇者と外交関係を築いていたところに、鍋島直茂さんは天正九年(1581年)の段階で羽柴秀吉さんに南蛮帽子を贈って誼を通じていたということが取り上げられています。

これは織田家および秀吉さんの勢いを見て、毛利家と織田家を両天秤にかけていたということなのだと思いますが、その後の秀吉さんの躍進に龍造寺家&鍋島家がしっかり乗っていけたことを踏まえればとてもよい判断だったと言えるでしょう。
(各地方勢力は秀吉さんにつくかつかないかでお家存否が分かれましたからね……)

秀吉政権下では、毛利家との旧縁を活かしてかちゃっかり小早川隆景さんを通じて中央に伺いを立てているケースが多いのも上手いなあと思わされます。

 

 

二つ目は龍造寺隆信さん敗死後のお家立て直し

島原の戦い(沖田畷の戦い)から秀吉さんの九州征伐までの間の龍造寺家って何してたかあんまり印象がなかったんですが、龍造寺政家さん&鍋島直茂さん(実質はやはり直茂さんの下にまとまっていたっぽい)がしっかりと肥前勢をまとめ、島津家と和平し、大友家の立花(戸次)道雪さん&高橋紹運さんと対峙していたことが取り上げられています。

当主と重臣があんなに一気にお亡くなりになったのに、島津・大友に蹂躙されることなく引続き勢力をよく保っていたという手腕は凄いと思いますし、龍造寺家の底力を感じますね。

 

 

三つ目は朝鮮出兵

鍋島直茂さんは加藤清正さんとともに大活躍していたということは何となく知っていたのですが、交易利権確保を睨んでか帰国命令を受けても無視して朝鮮に居残ったり、清正さん同様に虎狩りに励んで肝などを秀吉さんに贈ったりといったアグレッシブな働きをされていたことは存じませんでしたので印象深かったです。

加藤清正さんが明の大軍に包囲されているところを毛利秀元さんや蜂須賀家政さんや黒田長政さんと一緒に助けるところなんて「若いなあ」とかんたんしてしまいます。

この時点で鍋島直茂さんは61歳ですからね。

このとき緒将は、老将直茂に作戦を求めたので、いったんは辞退しながらも答えて、三十万からの明軍を攻撃するにあたり、囲みの弱い所を自分の軍勢で攻撃するので、その様子を見て作戦を練り、総攻撃に移るように献策し、みずから千六百の軍勢を率いて明軍に攻撃を加えたといわれる。

 

……やっぱり葉隠味を感じます。

 

 

朝鮮出兵関係では、直茂さんだけでなく成富茂安さんの大活躍も印象的でした。

そりゃこんなけ武功上げてたら戦後に加藤清正さんたちにも顔が効くわというくらい。

 

信長の野望などでは政務家の印象が強いのですが、もっと武勇方面も知られて評価されてもいいんじゃないかと思っちゃいますね。

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全体を通じて、淡々とした事績解説からでも充分に、鍋島直茂さんの戦術家としての、あるいは政治家としての、突出した凄みを感じることができました。

やるべきことをやるべきタイミングでやり過ぎちゃうかというくらいガツンとやってる感。

しかも本人は静かにストイックにやってるのが怖い。

 

そりゃこんな人を隆信さん以外の龍造寺一門が御するのは難しいでしょうし、秀吉さんや家康さんもこっちを立てておくわなと思ってしまいます。

 

そして、私はそんな鍋島直茂さんにやっぱり憧れてしまいます。

 

 

 

九州三国志というと大友家と島津家の人気が高い印象がありますが、龍造寺家も負けずに人気が出ていきますように。

いちど九州にも暮らしてみたいものです。

 

 

「戦国の肥前と龍造寺隆信 感想」川副義敦さん(宮帯出版社) - 肝胆ブログ