今月号のひととき、千宗室さんが「洋ランは個人的に好みでない」「でも日持ちするので他の花でなく洋ランを贈ってほしいと言われる」「気持ちに折り合いをつけながら仕方なく洋ランを贈っている」という踏み込んだ告白をしていてかんたんしました。
この「ひととき」の千宗室さんの連載「京都の路地 まわり道」おもしろいんですよね。
裏千家家元ということで、いやでも多くの人から忖度される立場だと思いますので、なかなか好みや好き嫌いを表明しにくいだろうと思いきや、けっこうあけすけに「あれが好き」「これは好きでない」といつも語ってはって好感を抱きます。
無駄な気の使いあいをするより素直な気持ちを伝えるのが一番ということでしょうか。
今月号では、「花好きの花嫌い」というタイトルで、洋ランなあ……ということを書いてはったんですよ。
園芸家さんや花屋さんには非常に申し訳ないんですが、私も「公的に花を贈るなら胡蝶蘭の鉢植えでしょう」という異論を許さないかのような風潮、いかがなものかと常々思っておりましたので、千宗室さんみたいな方が思い切ったことを仰っているのにワオと驚き嬉しかった次第なのです。
↓参考:洋ラン(google画像検索)
千宗室さんは
花は枯れるものである。しかしながら、この八岐大蛇のようなランは咲いている期間が長い。花弁と葯も私の目にはくどく映る。近頃では花か葉のどちらかが合わないのか、時折アレルギー症状も出る。それでも届く場合はおことわりするわけにはいかない。取り敢えずリビングに置くことになる。
と、美意識の観点から「好みでない」ということを仰っています。
確かに、こち亀でも「餃子みたいな花」と言われていましたし、花の好みは人それぞれですから、「贈り相手にきれいな花で喜んでもらいたい」という立場に立てば洋ラン一択のような姿勢は本来おかしいということになりましょう。
一方、洋ランには「日持ちする」という得難いメリットがありまして、洋ランの鉢植えに贈り主の名前入り立札をブッ刺しておけばとりあえず格好がつきますから、公的な贈呈品として洋ラン最高という現実的判断がなされるのが常なんですけどね。
千宗室さんも、当初は茶花のアレンジメントを贈ることにしていたそうですが、
ある時、その主催者側から「もっと長持ちするものにしてほしい」との要望があった。一週間を越す展覧会の場合、私が出す花は途中で枯れてしまうとのこと。先方はこちらの名札の花が早く撤去されるのは気の毒だ、との善意からの申し出のようである。だから言われるままに洋ランの鉢植えに取り替えた。
というなかなか悲しい経緯で洋ランを贈ることにしたのだそうで。
私個人としては、洋ランの花自体はふつうにキレイだな、華やかだな、という感じに別に嫌いではないのですが……
いかんせん洋ランの鉢植えは重い。デカい。
あっちからこっちへと運ぶだけで腰がやられそうになります。
店舗やイベント会場のオープン作業なんかをしたことある方とかなら共感いただけると思うんですが……洋ランの鉢植えって、おおきくは無難で華やかでいいモノですけど、現場でセッティングするサイド的には超ツラいんですよね。
特に大量に贈られるようなめでたい系の場では。
場所を取るので置き場所にも気を使うし、
花が散った後は捨てるのもなんだし放置するのもなんだし。
洋ランの鉢植えはちゃんとケアすれば翌年も花が咲きます。命あるものですから生きている花を折って捨てるようなことはしたくない。
でもじゃあ花が散ってからの1年間、いったい誰が面倒みるんだオイてなるんですよ。
剪定とか温度管理とか水やりとかさあ。
結局あきらめて処分するにしても心が痛むしさあ。
本当に、洋ラン、鉢植えは生き物ですから、ある意味犬とか猫とかハムスターとか贈ってるのと同じなんですよ、飼育責任的な意味でも。
そこまで考えた上で、なお皆が喜んでくれると確信してから鉢植えを贈りたまえと声を大にして言いたいざんす。
と愚痴シャウトが頭によぎりつつ、今月号の「ひととき」は全体的によかったです。
雪舟さん特集で紹介されている山口県の大内文化写真はどれもきれいでしたし、
島根県浜田市の「長浜人形」の紹介ページも愛らしい写真でしたし、
リングヂャケットのスーツ紹介も格好いいし、
琵琶湖の鮒寿司はおいしそうでしたし。
こないだ隠岐の島に行きましたが、あらためて山陰の方に行きたくなりました。
行きたい場所が多過ぎて困る。
「ひととき」はやや地味ながら、質の良い特集が多くていい雑誌だと思います。
オピニオン色のない、旅や食や文化の紹介に徹してはりますし。
東海道新幹線に乗る際は(冊子かグリーン席の)購入を視野に入れる価値があると思いますよ。
お花を贈る際も、少なくとも食べものを贈る際と同じくらいには相手(の周辺含む)目線での心配りがなされる世の中になっていきますように。
とりあえず洋ランの鉢植えってのは違うと思う。
こういう私見を人の権威に乗っかるかたちで吠えるのは格好悪いんですけど、あまりにもせやせやと思ってしまったのでついこんな文章を書いてしまいました。
すみません。