肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

陶彫「般若心経」池田満寿夫さん(三重県菰野町パラミタミュージアム)

 

以前三重県北部を回った際、立ち寄ったパラミタミュージアムで鑑賞した池田満寿夫さんの陶彫「般若心経」がめっぽうアバンギャルドかつプリミティブでめちゃくちゃ興奮するほどかんたんしました。

 

この美術館は足を延ばして訪れる値打ちがふんだんにあると思います。

隣りにおいしい自然薯屋さんもありますし。

www.paramitamuseum.com

 

 

池田満寿夫さんは画家・版画家にして、小説を書けば芥川賞受賞、映画を撮ればヒット、テレビの娯楽番組にも出演……等々、一時は時代の寵児として知られた人物ですが、早くに亡くなられたこともあり、若い世代の方々は馴染みがないかもしれません。

 

私も、池田満寿夫さんといえば腋毛や陰毛を強調した女性ヌード像のイメージが強くて(よく考えればこのモチーフも荒々しくプリミティブだ)、晩年に作陶や仏教美術を手がけられていたということを全然存じませんでした。

 

↓ 参考:池田満寿夫さん作品のグーグル画像検索

池田満寿夫 作品 - Google 検索

※小学生は性癖が歪むので見ないように。会社とかでも見ない方がいいです。

 

 

 

こちらのパラミタミュージアムは、岡田一族の女性経営者、「イオンを創った女」として名高い小嶋千鶴子さんが創立したとのこと。

まさに池田満寿夫さんの作品「般若心経」を常設展示することをメインに創建されたそうで、「パラミタ」も「波羅蜜多」から取っているそうですよ。

小嶋千鶴子さんはビジネスパーソンとして著名ですが、夫とともに芸術方面でも有名だということも存じませんでした。多才な方っているもんだ、スゲェなあ。

 

22年6月5日までは平山郁夫さんの作品展もやっているので、なおのことおすすめ。

平山郁夫さん版の洛中洛外図、初めて見れたので嬉しかったです。

 

 

ミュージアムでは、「般若心経」図録が経年劣化を踏まえ500円で売っていたのもありがたい。

 

こんなに内容と値段が釣り合っていない買い物、久しぶりです。

いずれ古書店とかで何千円何万円の値打ちが出そうなものを、500円で買えてしまっていいのかしら。

 

 

池田満寿夫さんの「般若心経」は、ものすごくオリジナリティの高いデザインでして、伝統的な仏像等の日本美術とは全く文脈が異なります。

 

写実性……まあ本物の仏様を見たことがある人自体少ないのでしょうけど……重視というよりは、土の中から発掘した仏塔らしきものに仏様らしい顔がゴロンと乗っかっていたりはめ込まれていたりするようなデザインが中心なんですね。

初見の人に「誰が作ったと思いますか?」と聞いたら、たぶん大半は「うーん、千年以上前の、敦煌とかガンダーラらへんに住んでいた人じゃないですか。砂漠に埋まっていた系でしょ?」と答えると思う。

それくらい、現代日本人の感覚から離れたところにあるデザイン。

 

そのため、評価という点では賛否両論が激しい、というか積極的に評価することすら避けられていたみたいな話も耳にしましたけど、私はとても好き。

特に「地蔵」シリーズが好き。

原始仏教哲学とかに関心を抱いたことがある人は絶対見るべき。

仏教に興味がない方でも、土偶とか縄文土器とか洞窟壁画とかメソポタミア美術とか、原始的で人間的でエネルギーが高い、マジカルでミスティックなアートが好きな方は見た方がいいですよ。

 

本当に、現代人がよくこんな作品を形にできたものだと思います。

 

 

最後に、池田満寿夫さんが作陶に魅せられた時の述懐が良い文章だったので、紹介させていただきます。

私の作風や考え方が変ったのは四年前、岩手県藤沢町で縄文風な野焼をした時からである。野原に薪を積みあげて焼くこのもっとも原始的な焼き方は、天高く燃え上がる炎の力をまざまざと見せつけられて興奮した。だが翌朝焼跡に行ってみるとほとんどの作品が破壊されていたのだ。火力が強すぎたのである。打ちのめされ、茫然としたが、破壊されながらも原形をとどめている造形に炎がつくりあげた神秘的な美しさを感じた。陶作品は土を固め、炎で焼き、そしていつかは砂にもどっていく。私ははじめてそこに宗教的な輪廻を感じた。人類はいかに多くのものを創造し、多くのものを破壊されて来たことか。そしてえいえいとものを造り続ける。炎は土を固め、同時に灰燼に化す魔力を持っている。創造と破壊の神秘を持つ炎の芸術、陶こそ般若心経にふさわしいと考えたのは、この野焼の経験があったからである。

 

 

とても印象に残りましたし、多くの方を魅了する力を持っている作品群だと思いますので、今後も定期的に池田満寿夫さんの作品がリバイバルされていきますように。