じゃりン子チエの文庫版29巻、タヌキとマサルをめぐる物語が緻密な構成で見どころ多くかんたんしました。
こういうお話を読むと、マサルがじゃりン子チエの中でどれだけ替えのきかないキャラなのかを思い知ります。
28巻に収録されている話は次の通りです。
- 雨に泣く者
- 友あり 遠方より……
- 疑惑の半券「特上ステーキ無料招待券」
- 無料高級ステーキ屋はどこだ
- ヘレ肉「ヘレクラブ」
- 本日決行「特上ステーキ無料お食事会」①
- 本日決行「特上ステーキ無料お食事会」②
- 本日決行「特上ステーキ無料お食事会」③
- そしてテツは立ち上がる
- 「ヘレクラブ」開店嘘話
- 「ヘレクラブ」の真実
- 「誰がタヌキやねん」
- 満月にタヌキは踊る
- タヌキの正体
- 「タヌキ対キツネ」交番の決闘
- タヌキポスターの波紋
- 見た・居た・消えた
- マサル(タヌキも一緒です)はどこだ
- ひょうたん池の説得
- ポンタンの日記
- タヌキのお礼に剣の舞
- そんなこんなで今年も暮れる
前半が帰ってきたレイモンド飛田「ヘルレクラブ」編、
後半が迷いタヌキをめぐる物語になっています。
いずれのお話も、単話で読むと展開の全体像がつかみにくいのですけど、まとめて読むと構成の緻密さ、じゃりン子チエ世界の各登場人物の自然な行動が物語を生んでいく様がクオリティ高く、かんたんさせられます。
「その展開は新たな展開に発展し意表をつくダイナミックなドラマ仕立てと綿密に計算しつくされた完璧なプロットにささえられあっちゃこっちゃの布石の山が見事なラストのドンデン返しに向ってその・・・・」
と解説されていましたが、実際にはるき悦巳先生のプロット構成力はすごいものがあると思いますね。
以下、ネタバレを含みつつ各キャラの名ゼリフを。
チエちゃん
「居らん~~~
テツが居らん~~~
寝る
今のうちに体力戻しとかんと
テツが帰って来て相手させられたら
もう店やる気力がなくなる
ああウチは日本一………
あかん………
頭がくさってなにも浮かばん」
ある雨の日のチエちゃんの独り言。
一人の時間ができた瞬間に眠って体力を取り戻そうとするその姿、小学生とは思えぬ社会人っぽさがつらいっす。
おバァはんと近所のバァさん
「なんか出来るみたいでっせ」
「エッ!?」
「バブルのせいだすな」
「バブル……!?」
「ほれ……
ようバブルで会社がつぶれたとかゆう話
聞きますやろ」
「あ…
ああそれ
バブルとかゆうやつ」
「ええそのバブル」
地獄組跡地にいくつかの会社が入るもみな潰れ、再びレイモンド飛田さんがカムバックしてくるお話の導入部。
大阪のおばちゃんぽい雑な会話が好きです。
テツ
「おまえらそんな顔しとったら
彼女とはうまいこと行っても
大切な友達なくすよ」
「ラーメンのかわりはあっても
テッちゃんのかわりはない」
カルメラ兄弟に彼女ができて、かまってくれなくなったので拗ねるテツ。
こういうとこかわいいですよね。
チエちゃん&ヨシ江はん
「あ……
ウチ バラ寿司が食べたいな」
「よろしいな………
久しぶりですし
それに暑い時は食べやすいですわ」
夕食の献立を考える何気ない会話ですが、母娘の日ごろの暮らしが伝わってくるようなセリフで好き。
バラ寿司というのもローカルで実にいいっすね。
レイモンド飛田
覚えていてくれましたか
レイモンド飛田です
今回先生には世間に気がねなく
付き合っていただけるように
わたくし
パーフェクトカタギになって
帰ってまいりました」
インテリの花井センセに帰国・ステーキ屋開業のあいさつに来たレイモンド飛田。
「パーフェクトカタギ」という言葉が妙に耳に残りますね。
アントニオジュニア&小鉄
「あの形
たぶんカタカナやろ
そやからチエちゃん連れて行って
たしかめるんや
なんぼチエちゃん勉強あかんでも
カタカナくらい読めるやろ」
「あ…
あのなあ………」
暴言が過ぎるジュニアが小憎らしくてかわいいっす。
生意気な子どもって、同世代だったらむかついても年とってから見るとかわいく映るのが不思議。
タカシ&チエちゃん&ヒラメちゃん
「そやから
マサル愛の充満で忙しいんとちゃうか」
「あ…
あのなあ………」
「まんじゅうのまちがいとちゃうか」
「マサルにはまず愛を見つけてほしいわ」
「それ!!」
さいきん様子のおかしいマサルについて話す三人。
このころから「それ!!」って合いの手あったんやなあ。
渉先生
「学校を休んだのは風邪だって聞いてたけど……
本当はそのタヌキのことで休んだのかい…
訳があるようだけど
ボクに話してくれないかな」
拾ったタヌキが、テツたちに命を狙われていると思い込んだマサル。
テツに見つからないよう・近寄ってこられないようにひょうたん池に身を隠します。
そんなマサルにボートを近づけて説得を試みる渉先生。
日ごろ頼りなさげに見える人物ですが、いざという時の先生らしい頼もしさ、まっとうな大人らしさが素敵ですね。
パッと見のキャラは違うけれど、花井センセと人間性は似ていると思う。
レイモンド飛田&おバァはん
「ワシはプロや
どんな客でも歓迎する覚悟は出来とるんや」
「プロやったらそれ言いなはんな」
迷子タヌキ騒動が解決し、タヌキの本来の飼い主からレイモンド飛田経営のステーキ屋さんでご馳走になることになった一同。
何気ない会話に、レベルの高い経営者マインドが交錯していて唸りますね笑。
マサル&タカシ
「昨日オレさがしてくれてたんやてな」
「あ…
いやオレは………」
「オレ…………
タカシにポンタン見せといたら良かった」
「チエにもヒラメにもビックリさせたろと思てたけど
タカシには一番に見せたかってん」
「オ…オレに……」
「タカシはきっとオレと一緒に
タヌキかわいがってくれるやろ」
「ポンタンの飼い主が見つかったんや
ポンタンも喜んでたし……
あとはオレがポンタンのこと
忘れたらええだけやねん」
「マサル……」
「オレ泣いてない………
昨日思い切り泣いたんやから………」
「………
………」
一方、すべてが終わった後で、タヌキに関する日記を燃やしながら心中をタカシに吐露するマサルと、静かに受け止めるタカシ。少年たちの訥々とした言葉が胸を打ちます。
じゃりン子チエの長い連載期間を通じて、マサルとタカシのデリケートなジュブナイルが描かれていくの、すごい好き。
レイモンド飛田氏が戻ってきただけに楽しい巻なのですけど、最後の最後でマサルに泣かされる構成とはね。
ほんま構成の妙というやつです。
子どもと動物の出会いと別れって、涙腺刺激力が強いよね。
描かれることはないと思いますが、マサルが将来立派な大人に成長しますように。
(マサルのお父さんは立派な大人っぽいですし)
暮らす世界は変わったりするかもしれないけれど、マサルとタカシがいつまでも友達でありますように。
「じゃりン子チエ 文庫版27巻 感想 花井センセの作家論」はるき悦巳先生(双葉文庫) - 肝胆ブログ
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