肝胆ブログ

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「動物と人間の世界認識 イリュージョンなしに世界は見えない 感想 社会人的にも大事な視点」日高敏隆さん(ちくま学芸文庫)

 

ちくま学芸文庫の「動物と人間の世界認識」が教養としても面白いし、社会に生きる一人間としてもわきまえておきたい視点やなとかんたんしました。

巻末解説でもちらと書かれているとおり、上級管理職を目指すような方は特にこういう視点を持っておくといいんじゃないかなと思います。

 

www.chikumashobo.co.jp

 

 

ある日、大きな画用紙に簡単な猫の絵を描いて飼い猫に見せた。するとすぐに絵に寄ってクンクンと匂いを嗅ぎだした。二次元の絵に本物と同じ反応を示す猫の不思議な認識。しかしそれは決して不思議なことではなく、動物が知覚している世界がその動物にとっての現実である。本書では、それら生物の世界観を紹介しつつ人間の認識論にも踏み込む。「全生物の上に君臨する客観的環境など存在しない。我々は認識できたものを積み上げて、それぞれに世界を構築しているだけだ」。著者はその認識を「イリュージョン」と名づけた。動物行動学の権威が著した、目からウロコが落ちる一冊。

 

この本の目次
イリュージョンとは何か
ネコたちの認識する世界
ユクスキュルの環世界
木の葉と光
音と動きがつくる世界
人間の古典におけるイリュージョン
状況によるイリュージョンのちがい
科学に裏づけられたイリュージョン
知覚の枠と世界
人間の概念的イリュージョン
輪廻の「思想」
イリュージョンなしに世界は認識できない
われわれは何をしているのか

 

 

私たちを取り巻く世界は自然科学的には同じ世界な訳ですが、チョウ、猫、人間等、生きものによって見えている・感知できている世界はまるで違いますし、人間同士でも持っている知識や関心によって世界の捉え方は全然違う。

本来の意味での「世界観」の相対性について説いてくれる本になります。

 

著者独自の切り口で、我々人間や生き物が認識している世界はあくまで「認識」している「イリュージョン」であるとし、動物とはイリュージョンの中で生きているものだという指摘。分かりやすくも鋭いですね。

 

地球が平らだと信じられていた時代と地球が丸いと知っている時代とでは人々の認識しているイリュージョンは異なる訳ですが、現代人が持っている知識も完全な真理に到達している訳ではない以上、これから先も人類はイリュージョンを変化させていくのでしょう。

これから先も世界そのものがまだまだ変わっていく訳で、我々が暮らしている世界というものが一層愉快に思えてきます。

 

 

動物によって、同じ世界でも意味のあるものがまるで違うという、実例一つひとつも興味深い。

 

虫を食べる鳥にとって、動かない虫は石ころと同じで目に入らない。

ナミアゲハが飛ぶ道は決まっている。メスがいる可能性が高い、日の当たっている木のこずえを飛ぶのである。

ハリネズミは目の前のボウルにミミズがいても食べないが、枯葉の上にミミズがいてカサカサ音が鳴ると飛びついて食べる。ハリネズミは嗅覚だけでなく聴覚を使って餌を探す。

トリはヒナが鳴いていると助けに行くが、鳴き声が聞こえないようガラス鉢の中にヒナを入れると、ヒナの姿が目に入ってもスルーする。

モンシロチョウは、人間の目では知覚できない紫外線が羽に当たった時の色を知覚できており、メスを探す。要するにモンシロチョウと人間では見ている世界の色が違う。

等々。

 

そして人間はもっと複雑で、持っている知識や概念に応じて、時代ごと、世代ごと、個人ごとに異なったイリュージョン世界をつくりだす。

例えば、一昔前には「ラジオがあればテレビはいらない」という人が多くいた。生まれたときにテレビがなかった世代の人である。

と。

 

 

よく「上司/部下の考えが理解できない」「夫/妻の考えが理解できない」みたいな事例が世の中には溢れている訳ですけど、お互いが持っている・認識している前提知識がまるで違うんで、同じ組織や家庭の中で一緒にいても実はお互い違う世界で生きているんだからと言えなくもないんだよなあと感じますね。

 

人間と猫で見えている世界が違うのと同様、人間一人ひとりのあいだでも、生きている世界=イリュージョンは異なるのでありましょう。

 

そういう風に考えると、人間同士の中で生きていくのが少し楽になったり、課題を乗り越えるための工夫も思いつきやすくなったりするんじゃないかなと思いますわ。

 

 

このような、学問的な立場からものの観方や捉え方に気づきを与えてくれるような本、読んでいて楽しいですよね。

 

人間一人ひとりが有するイリュージョンが適切に尊重されつつ、また、適切に進化・変容していく柔軟性も有しつつ、みんなハッピーに生きていけますように。