じゃりン子チエ文庫版16巻に収録されている長編「赤子編」「鉄下駄編」がともに完成度が高く、とりわけヒラメちゃんの子どもらしい活躍がまぶしい鉄下駄編は映画化できるんちゃうかというくらいにかんたんしました。
16巻収録のお話は次のとおりです。
- 秋の夜のプレゼント
- その名はサトミ
- 「テプ」「パプ」「テツ」「パパ」
- 親捜し面接
- 一枚の写真
- 「どいつがサトミじゃ」
- ヨーデル・サトミ
- 白浜のヨーデル男
- 歌うカルメラ
- カルメラ親衛隊
- ヨーデル・サトミ物語
- ジュニアのマフラーが猿を呼ぶ
- 今年はええ年にするど!!
- 垂直跳びの練習
- 鉄下駄のプレゼント(テツからヒラメへ)
- 鉄下駄対金メダルシューズ
- 裸足の道場破り
- 震源地はチエの家
- サビた体に千本針
- 体力測定の朝
- 体力測定の午後
- 空手道場の夜
- 鉄下駄のプレゼント(ヒラメから太郎丸へ)
- 真夜中の反省会
以下、ネタバレを含みますのでご留意ください。
前半はチエちゃんの店の前に赤子が置き去りにされ親捜しを行う長編、
後半はチエちゃんヒラメちゃんマサルの体力測定と、おバァはんvs道場破り太郎丸さんの空手対決が同日に行われる長編が収録されています。
あいだに収録されている小鉄・アントニオジュニアvs箕面のサル軍団もなかなか見応えがありますよ。
以下、各登場人物の名ゼリフを。
チエちゃん
それにあの赤ちゃんも……
今はテツにしかなついてないからええけど
その内……もしウチにまでなついたら……
こ…こわ~~
それでのうてもウチ日本一不幸な少女やのに
捨て子が自分に懐いてしまったら、赤子背負ってホルモン焼き屋やるんやろかと想像して困惑するチエちゃん。
かなりスジのいい未来予測をしている辺りが悲しい賢さですね。
カルメラ(兄)
♪あなたの下品な流し目に~
コロッといっちゃうわたしがバカよ~
バカ~
バカ~
バカでも今夜は愛されたい♪
白浜の旅館にて、団体客相手に謎の歌を披露し大ウケ・大モテするカルメラ兄。
カルメラ兄は何かあるたびに秘めたポテンシャルを発揮して男ぶりを見せつけてくれる引き出しの多さが魅力です。
小鉄&アントニオジュニア
「クソ~あのボス猿とり逃がしたけど今度は許さんど
行くかジュニア」
「おう」
チエちゃんちのおせち料理をめちゃくちゃにした箕面の猿軍団に対し、お礼参りに出向く小鉄とジュニア。
顛末は詳述されていませんが、どうやら二匹で数十匹の猿軍団を蹴散らしボス猿を滝壺で寒中水泳させた模様です。
小鉄はふだん争いごとを避けるのに、チエちゃんに被害が及んだ際は本気でケジメをつけにいくのが格好いいですね。
テツ
オジさんがええプレゼント持って来たったど~~
ヒラメちゃんが体力測定に向けて一所懸命練習しているのを見て、盗んだ鉄下駄をプレゼントするテツ。
テツはヒラメちゃんファンなので100%善意の行動なのですが、盗んだアイテムをプレゼントするという論外行為がトラブルを招きます。
ヒラメちゃん①
ウチ頑張るで
オッちゃんのためにも頑張らんとあかんねん
テツのプレゼントを真に受けて、鉄下駄はいて鍛錬に励むヒラメちゃん。
人の好意の裏側を一切想像することのない純性がヒラメちゃんのいいところです。
太郎丸(道場破り)
……オレの鉄下駄だ
しかしあの子ではない
あのけなげな少女に盗みなど……
ヒラメちゃんを見て、自分の鉄下駄をはいていることを認識する空手の道場破りさん。
しかしながらヒラメちゃんは盗みなどする子ではないだろうと同時に見抜いているところが当ゲストキャラの格の高さを示しています。
マサル
やん
やん
あれっ
真面目に練習してきたヒラメちゃんと違い、「金メダルシューズ」という分厚いスポンジで大ジャンプできる靴をはいてきたマサル。
結果、ジャンプ力があり過ぎてまともに走ることも飛ぶこともできず全ての種目でグダグダボロボロになるマサルの姿が、ギャグ成分少なめの鉄下駄編においてナイスなコメディリリーフぶりなのです。
ヒラメちゃん②
チ…チエちゃん
ウチ今までで一番跳べたわ
鉄下駄で下半身が鍛えられ、また、チエちゃんと何度も反復練習したことで、自己ベストの垂直跳びを遂げたヒラメちゃん。
努力が報われて何よりです。
ヒラメちゃん③
そのセンセ昔はいつも鉄下駄はいてたんやて
それでウチが鉄下駄はいて練習してるの見てなつかしいからゆうて色々教えてくれてん
それでセンセその時…出来たら自分もまた鉄下駄はいて練習したいてゆうたから
そやけどウチこの鉄下駄チエちゃんのオッちゃんからもろたやつやし
ウチもろたもんで一人でええカッコしてるみたいやから
道場破りの太郎丸さんに鉄下駄をプレゼントしたい、でもテツにもらったものをプレゼントするのはいかがなものか、と悩んでお好み焼屋のオッちゃんに相談するヒラメちゃん。
そもそもテツが盗んできたものを本来の持ち主に返すだけの話なのですが、ヒラメちゃんはそんな経緯を露知らず。
真剣に悩んで、終始下を向いてポツリポツリと相談する姿に胸を打たれます。
結末としてはテツの悪事が露見して小鉄にやっつけられるオチなのですが、その際もヒラメちゃんはなぜテツが倒れてるのかわからず一人だけ真剣に心配するんですよね。
そして、その姿を見て、道場破りの太郎丸さんもそれ以上何も言わず、鉄下駄をヒラメちゃんから受取り黙って去っていくのであります。
太郎丸さんの寡黙なええ男ぶりと、どこまでも汚れなきヒラメちゃんの真心が好対照で映画のような満足度のある長編でした。
非常にクオリティが高いのでおすすめしたいですね。
ちなみにおバァはんは太郎丸さんと互角以上に立ち合います。
「実戦で鍛え上げた構え」と太郎丸さんから評されていましたが、今更ながらどんな婆ちゃんやねん。
それにしても、いい年になってからじゃりン子チエを読むと、昔は塩せんべいかじってる子くらいにしか思っていなかったヒラメちゃんの魅力がすごい。
いまは子どもたちものんびりしていられない世相で大変そうですけれども、ヒラメちゃんのように一見どんくさくても心根のよさが周囲に伝わるような子がこれからも周囲から大事にされていきますように。
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