肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「天下普請の名城 丹波篠山城 国指定の史跡……青山忠成・忠俊の紹介等」梶村文弥さん(あいわ書房)

 

郷土史家による丹波篠山城の紹介冊子が、城の成り立ちだけでなく青山氏の人物紹介や幕末の動きなんかも書いてあり、短いながらも読み応えがあってかんたんしました。

 

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ネット上に情報がほとんどなく、流通経路が不明の本です。

平成20年第一刷、平成22年第二刷と書いていますので、たぶん現地に行けば手に入ると思われます……。

(私は古本屋さんで手に入れました)

 

 

おおまかな内容としましては、

  • 篠山城築城の経緯
  • 歴代城主一覧
  • とりわけ青山氏を詳しく紹介
  • 篠山城の設備や領内町村数・人数等
  • 幕末の世情と篠山藩
  • 廃城とその後

といったところで、全100ページ足らず。

 

コンパクトに篠山藩の歴史を学べますので、こうした郷土史紹介冊子のお手本のような逸品ではないかと思われます。

 

 

篠山城兵庫県篠山市にございまして、信長の野望等では波多野氏で有名な八上城の近所に位置します。

慶長14年(1609年)に天下普請として、松平康重さんを城主に、普請総奉行を池田輝政さん、縄張奉行を藤堂高虎さんに、西国16カ国21名の大名を助役にさせて築城。

この辺りは京都から山陰・山陽道に通じる要衝ですし、大坂城の監視も兼ねていた模様であります。

 

 

この本ではひとつの空想として、篠山城は立派な縄張ながら天守閣がなく、一方で華麗な大書院があることから、実は大坂方との交渉が上手くいき、豊臣秀頼さんと淀君さんが大坂城を明け渡した場合の、淀君の隠居所として考えていたのかもねみたいなことも書いてあったりして楽しいですよ。

 

 

篠山藩は青山氏の統治時代が長かったためか、この本でも青山氏についてはしっかり目に紹介いただけます。

 

例えば青山氏の家紋「無字銭」の由来についても、

  1. 後醍醐天皇から銀銭を賜った説
  2. 青山忠成さんの留守中、奥方が麦をついたら滑銭が出てきた説
  3. 青山忠成さんが出陣する際、具足櫃の上に銭が乗っていて、お守りに持っていったら大きな戦功を上げることができた説
  4. 庭の竹の子が銭を先端に乗せたまま生え出してきて縁起が良い説
  5. 青山忠俊さんが十一面観世音菩薩を信仰していたら庭の竹の子が(中略)説

と様々な説を紹介いただけます。

 

ちなみに青山忠成さんとは、201Xの無骨者集め@三河の副産物のあの人ですよ。

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この方は江戸入府の際に徳川家康さんから「目の届く限りの地」を太っ腹に賜ったのですが、その賜った土地が現代のセレブシティ青山であることで知られていますね。

家康さんの放鷹時の不手際で失脚したそうですが、功績の多い譜代大名なので、すぐに許されて加増を重ねたそうです。

 

 

青山忠俊さんは青山忠成さんの次男で、兄が早世したので嫡子となった方です。

小田原征伐関ケ原の戦い大阪夏の陣と戦歴を重ねた強者ですよ。

 

徳川家光さんを厳しく諫めたことで知られており、大肌脱ぎとなって家光さんに詰め寄って「言うこと聞かんなら儂のタマ取ってみいや(意訳)」とすごんだり、家光さんがファッショナブルな恰好(伊達政宗さんの影響だろうか)で外出しているのを見つけると走り寄って抱き留めて飾り立てた頭の紙を引きちぎったり、家光さんが鏡に自分の姿を映しているのを見て「それでも男ですか、軟弱者!(意訳)」と鏡を取り上げ庭へ投げ捨てたりされてたそうで。

(名将言行録等が出典のため、真偽不明)

 

家光さんには嫌われてしまって減封を喰らったそうですが、やがて赦免。

ただ、本人は意地があるのか幕閣への出仕は二度としなかったそうな。

 

 

その後も青山氏は順調に繁栄し、青山忠朝さんの頃に笹山藩主になったそうです。

篠山城には青山氏を祀る青山神社もありますね。

 

 

 

篠山城に戻って、他の話を。

 

この本では、篠山城は「桐ヶ城」とも呼ばれるが、これは一般に「桐の木が多いから」と言われているけれど、この辺りは桐があまり育たないので、「霧ヶ城の転訛だろう」と郷土史家らしい説を述べられているのが印象的でした。

確かに丹波と言えば霧なので、説得力があるように思えます。

 

また、著者の祖父(1853年生まれ)に子どもの頃聞いた話によれば、幕末の頃は篠山城でゲベール銃や大筒の実射訓練をしていたそうで、破壊力はともかく射程の長さや発射音の大きさにはとても驚いたというエピソードが紹介されているのも興味深いです。

当時を知る人への聞き取り調査っていいですよね。

 

 

取り上げればキリがありませんが、こうした様々な説明やエピソードに触れることのできるよい郷土史本だと思います。

見かけたら手にされてみてはいかがでしょうか。

 

 

各地の素敵な郷土史家さんが引続き元気に活動なさって、研究成果を書籍等の形に残してくださいますように。

 

 

 

 

おすすめのフリゲ「astlibra(アストリブラ) mini外伝 ~幻夢の洞窟~」KEIZOさん

 

アストリブラというアクションのフリゲが面白くてかんたんしました。

操作していて楽しいゲーム。

 

www.keizo.games

 

 

 

 

本編は2025年完成予定で、こちらは外伝的な位置づけの作品とのことです。

 

ゲームの特徴としては、

ブレンドしたような感じでしょうか。

 

ダンジョンに潜って、良質な装備や主人公成長要素(フォース)を集めて、主人公を強化して、より深く潜っていく、潜れば潜るほど装備も魔法も派手になっていく、楽しい、というようなやつです。

 

 

ストーリーのネタバレはせずに、かんたんに紹介を。

 

 

主人公のパン屋の娘さん。名前はまだない。

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妹の名前がコムギさんなので、おそらくコウボさんとかイースト菌さんとか名付けられているのではないでしょうか。

 

背景のグラフィック、きれいでしょう。

複層構成で背景がつくられていて、歩いているだけで満足度が高いんですよ。

BGMもいい感じにマップ・ストーリーと合っていまして、アクションゲームで大事なものをきっちり押さえてくださっている気がして嬉しい。

 

 

更に、二段ジャンプ時には魔法陣が足下に発生して土台になる等、アクション全体が触っていて楽しくて見目がよいんですよね。

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攻撃関係。

 

武器を振り回しているところ。

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格好いいエフェクトですが、振り回しているのはほうきです。

ほうきですら振り回していて楽しい。

このゲームは魔法重視のゲームバランスなのですが、私は武器の振り回しにこだわりたい派です。

 

終盤の武器になると剣速・威力ともに凄いことになってきますしね。

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とは言え、主人公のメイン戦術は魔法。

 

おすすめはストーム、

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イレイザー

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ゼウスといったところ。

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まあ、難易度:簡単モードではイレイザーやゼウスを入手する前にクリアできてしまうと思いますが。

難易度:地獄モードの終盤は、雑魚はイレイザー、ボスはゼウスが便利ですよ。

 

 

難易度の話をしますと、ゲーム開始時に選んだ難易度は変更不可です。

クリアするだけなら簡単モードがいいと思いますが、強い武器や魔法を集めようとすると、地獄モードでないとフォースという成長要素が効率よく集まらないので、やり込むつもりなら地獄モードでプレイしましょう。

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地獄モードといっても、おおきくは敵のHPと攻撃力がマシマシになっているだけですので、きちんと立ち回りや盾ブロックを使いこなしてノーダメージプレイに徹していれば何とかなると思います。

大事なのは盾。

あと、5層ではミノタウロスダッシュの不意打ちを予測しておくこと。

 

 

 

マップも軽くご紹介。

 

1層は平原。

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青空がいいですね。

 

 

2層は湿原。

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光とモイスチャーのコントラストがいいですね。

 

 

3層は火山。

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雲と煙の雄大さがいいですね。

 

 

4層は海。一番好き。

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好きな雑魚敵、チョウチンアンコウ

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好きなボス、マーメイドとお供のマーマン×2。

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5層は最終面なのでいちおう伏せておきます。

 

 

また、ゲームをクリア直前まで進めると、街の闘技場で裏ボスと戦えるオマケがあったりもしますよ。

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裏ボスやゲームクリア後等、ところどころで大きなおっぱいや特定性癖に響きそうな絵面も見れますので、そういうのが好きな人は楽しみにしておきましょう。

 

 

 

これだけ内容が詰まっていて、武器や魔法を振り回しているだけで面白いアクションゲームはなかなかございません。

フリーゲームで広く提供いただけていることに、ただただ感謝であります。

 

製作者様は大変かと思いますが、本編が無事に完成いたしますように。

このクオリティなら遠慮なく課金させていただきたいです。

 

 

フリゲ「ASTLIBRA~生きた証~ 攻略した感想 製作者さんの生きた証的な情熱を感じた」 - 肝胆ブログ

 

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「アクタージュ5巻感想 映画と舞台の違い」原作:マツキタツヤ先生 / 漫画:宇佐崎しろ先生(ジャンプ)

 

アクタージュの5巻。

本誌では1周年巻頭カラー。

プレイボーイでは巻末グラビア。

 

集英社を挙げて盛り上げていこうとされているかのような勢いですね。

アクタージュの世界観が一層拡がり、深まりつつあるように思えます。

 

もうなんちゅーかこの作品にはかんたんしっ放し、感想を言語化するのも難しいっす。

 

www.shonenjump.com

 

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5巻の表紙は星アキラさん。

恐るべき透明感。

この透明っぷりが本編の彼に通じるようで哀しい、美しい。

 

 

5巻ではいよいよ舞台「銀河鉄道の夜」が始まりました。

 

偉大なる演出家「巌裕次郎」さん抜きに、主人公夜凪景さんと劇団天球の面々は無事に舞台を成功させることができるのか!? という流れです。

 

 

一つひとつのエピソードは語りませんが、単行本として一度に通して読むとですね。

生と死、幸いと不幸、大人サイドと若者サイド、過去とこれから……この銀河鉄道の夜編全体を通じて何層にも繰り広げられる二律背反に見せかけた止揚がですね、もう堪らんのですよ。

 

本誌の1周年記念号を読んで、この5巻読んでとやると、いい年した大人でも目頭が熱くなるんですよね。

 

 

 

裕次郎さんと黒山墨字さんの関係とか、

裕次郎さんと星アリサさんの関係とか、

七生さんの七変化(おまけ漫画)イイねとか、

星アリサさんの教育スタイル(おまけ漫画)とか、

柊雪さんは黒山墨字さんと同居してるのか(おまけ漫画)とか、

百城千世子さんのときどき見せる爬虫類みたいな瞳がスゴイだとか、

夜凪カムパネルラさんの圧倒的な高次元の存在感漂う作画がハンパネーナだとか。

 

この5巻だけでも惹かれる点は色々あるんですが。

 

 

 

個人的にいちばん印象的なのは、デスアイランド編から銀河鉄道の夜編に移って、漫画の構成・テンポも映画的から舞台的に変わったなあという点。

 

たぶん意図的な演出なのだと思うのですけど、これをジャンプ1年目のルーキーがやってはるのがごっついなあと思うのです。

 

 

あくまで私見ですが、映画と舞台って時間や演出の制約の違いから、けっこう魅せ方が違うじゃないですか。

邦画だと90分~120分くらいの作品が多くて、限られた時間を最大限に活かすために、展開はスピーディで、主役級を目立たせるような演出が多い。気がする。例外多数。

舞台だと休憩挟んで180分くらいやるのはザラで、一つひとつの場面、一人ひとりの役者にフォーカスし、じっくり掘り下げていくような演出が多い。気がする。例外多数。

 

 

デスアイランド編では、夜凪景さんと百城千世子さんの二人に焦点を当て、ミサイルや台風といった舞台装置のもとで駆け抜けるように作品が進んでいきました。

夜凪景! 百城千世子! という当作品の二枚看板の魅力をこれでもかと魅せつけてくださる演出で。

これは「アクタージュ」という作品を読者が知る上で、極めて分かりやすく、入っていきやすい構成だったと思うのです。

 

 

一方、この銀河鉄道の夜編では。

週刊誌的テンポをあえて抑え、高密度×長時間の舞台的じっくりテンポに切り替えて、亀さん→七生さん→星アキラさん→明神阿良也さん→夜凪景さん(巌裕次郎さん)と、一人ひとりの登場人物を丹念に丹念に描き、「生と死」「本当の幸い」「大人が若者を救済することで大人もまた救済される」という極めて重厚なテーマを、週刊少年漫画媒体とは思えないクオリティでぶん殴ってきてくださっていますよね。

 

宇佐崎しろ先生の作画による激烈な説得力に導かれ、

マツキタツヤ先生の抱く方向に視線と感覚を誘導させられる、

この贅沢な時間がね、まさに舞台的で、いいなあと思うのですよ。

 

本編はもうすぐ閉幕となりそうですが、いい舞台特有のね、ずっとシートに座っていたくなるような、無理に話を進めなくてもいいんだよ、ゆっくり魅せてちょうだいと思ってしまうようなあの感覚と快感をね、漫画で体感できるのがまったく幸いなのです。

 

 

この漫画を読んで、舞台芸術に興味を持つ若い人も多いんだろうなあ。

舞台芸術は演劇であれミュージカルであれハマると底なし沼ですので、みんな、落ち着いて、程よいペースで親しんで参りましょう。

 

 

銀河鉄道の夜編全体の感想は、6巻、閉幕を見届けてから書けたら書きたいです。

 

彩りを増していくアクタージュの登場人物たちが、ますます活躍の場を拡げ、表現を深めていってくださいますように。

 

 

 

「アクタージュ4巻感想 巌裕次郎の背中が大きい」原作:マツキタツヤ先生 / 漫画:宇佐崎しろ先生(ジャンプ) - 肝胆ブログ

 

「アクタージュ6巻感想 星アリサこそが裏ヒロインか」原作:マツキタツヤ先生 / 漫画:宇佐崎しろ先生(ジャンプ) - 肝胆ブログ

 

 

「太陽のない街」徳永直さん(岩波文庫)

 

戦前、満州事変直前頃の労働争議を描いた小説「太陽のない街」が、共感はしにくいものの、胸に迫るものが多い濃厚な作品でかんたんしました。

 

www.iwanami.co.jp

 

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有名な「共同印刷争議」を、労働者側の視点で描いた作品になります。

 

舞台は東京都文京区小石川、植物園のあるあたり。

文京区と言えば高級住宅街というイメージしかありませんでしたが、こうした貧民窟・労働争議みたいな一面もあったんですね。

 

以下、内容の一部ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この小説の特徴は、何と言っても作者さん自身が労働争議当事者だったことによるリアリティとライブ感。

ストライキはおろか、経営者を襲撃したり、工場に集団で殴り込んだりと、なかなか現代人が聞けばマジすか感を振り切っているような話が続きますが、当事者たちの必死さや怒りや諦念や苦痛がヒシヒシ伝わってくる文章がお見事なのです。

 

兵糧攻めに堪え。

――それでもみんなは、都会の俺達労働者は、農村の小作人に比べれば楽なんだ。年から年中、粟やら、麦ばかり食って、小作人達はあんなに勇敢に戦っているんだ。なァいいか、みんなも「米なしデー」に参加して、争議が勝利となるまでは味噌汁は薄くしろ、菜ッ葉の代わりにおからを使え。――

 

和睦の使者を追い返し。

――おーーい、皆な出て来な、会社の廻し者が、押し掛けて来たぞゥ――。

四人の貴婦人は、すっかり度肝を抜かれてしまった。女房達の喚きに応じて、そこここの長屋から、子供や、女房や、老人達が飛び出して来た。

――どいつだ会社の廻し者は?

――溝(どぶ)に叩っ込んじまえ!

 

スキャップ(ストライキに参加しない者)をぶん殴り。

――どうして僕達が裏切りだ。僕は君らとは何の関係もないんだ。僕が自由意志で会社に雇われることは、民法でも指定されている通り、正当なんだぞ――馬鹿な。

苦学生は、見事云い負かした気であった。

――そうだとも、争議団は争議団、俺は俺だ。

失業者達は立ち上りかけた。すると、

――このスキャップめッ。

黒岩が、いきなり、その苦学生の顔面にメリケンをくれた。釣鐘マントは不意を喰らってひっくり返った。室内は総立ちになった。

 

最後は和睦派と徹底抗戦派に分かれて内部争闘に暮れるという。

――そ、そんな条件で承知するくらいなら、畜生ッ、最初ッから、目を瞑って我慢すらあい、この泥棒奴ッ。

――この屈辱的解決条項を蹴飛ばせ!

場内は騒がしくなり、殺気立った。休戦派の方から、揶揄と嘲笑が起った。婦人達は怒って座席に立ち上りながら応酬し、やがて「赤旗の歌」が唄い出された。警官が飛び込んで来た。しかし歌声はやまなかった。検束者が怒号と罵声との混乱から、場外へ引き摺り出された。

 

 

キツいことを言えば、一枚岩になり切れずに分断工作に敗れ、過激化と内部分裂の果てに世間支持を失っていくのがいかにもこの手の運動の典型に思えなくもありません。

この作品としても、労働者側に立っているにも関わらず、「争議に勝つのは難しいだろう」という諦念が色濃いですし、描写的にも経営者側の方が動じてなくて格好良かったりするんですよね。

 

 

後世、この争議については「中国進出派による国内不穏分子潰し」「当時非公認だった共産党に扇動されたもの」等々の陰謀論めいた講評が加えられるようになったそうですが、そんな大それた話でなくても、苦闘の果てに報いを得ること叶わなかった労働者の方一人ひとりは誠に気の毒です。

 

現代人からすれば共感を得にくくても、当時の労働者は……まこと奴隷と呼んでも差し支えないような、酷い環境で働いていた人が大勢いたのは事実ですからね。

労働基準法労働安全衛生法も、こうした当時の悲惨あってのものでございますし。

 

(いまも酷い職場はたくさんありますが、労働争議により会社に変革を迫る人よりも、転職や独立により会社から離れることを選ぶ人の方が多いのかな)

 

 

 

プロレタリア文学と言いつつ、理論的・インテリ的な小説ではなく、むしろ大衆的・地面の匂いがする的な小説ですので、意外と気楽に読める作品ですよ。

一種の歴史小説として捉えてもイイと思います。

 

 

人類の進歩を信じていますので、時代を経るごとに、真面目に働く人がそれだけ報われるような世の中になっていきますように。

 

 

 

信長の野望201X「異聞 河越野戦のストーリー」※ネタバレ多め

 

201X、復刻された河越夜戦イベントを初プレイしたところ、戦国時代らしさとしても201Xらしさとしても満足度の高い内容でかんたんしました。

 

↓異聞河越夜戦復刻のリリース

nobu201x.gamecity.ne.jp

 

 

終わってから語るなという話ですが、ネタバレ多めのためご容赦ください。

攻略に役立つ内容はございません。

 

 

 

この河越夜戦イベントは「河東の乱」と「河越城の戦い」の二部構成となっているのですが、まず前半の河東の乱で今川義元さんが北条氏康さんを翻弄する訳なのですよ。

 

関東史のファン以外にはあまり知られていない気がする今川義元さんの巧みな手腕。

仲介役に登場する武田信玄さんも義元さんのことが若干苦手なようで、今川家好きには堪らないものがあるのではないでしょうか。

 

悔しさを隠さない氏康さん。氏康さんは悔しさを力に変えられるタイプだと思います。

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調停役で登場する信玄さんというのも新鮮ですね。

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義元さんのこの余裕。怖い人です。

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宗三左文字は家賃のカタに取り上げられたのかもしれませんね。

 

 

 

そんなこんなで河東の乱は今川義元さんの大勝利で幕を閉じ、フラストレーションの溜まった北条氏康さんは後編の河越夜戦で大活躍していただく流れになる訳です。

 

河越夜戦の展開自体は史実(伝説)に沿った感じで進んでいきますが、北条家や敵の古河公方・両上杉家には魅力的な方が多いので戦国合戦ものとして素直に面白いのです。

 

 

敵方の印象的な人たち。

 

立派な鞭が気になる上杉憲政さん。

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渋い魅力の長野業正・上泉信綱タッグ。

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渋い古強者の太田資正さん。

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Better be the head of a dog than the tail of a lion.

(ライオンの尻尾になるくらいなら犬の頭になった方がいいよね)

という英語のことわざがありますが、相模の獅子と戦い続ける愛犬家さんにも相応しい言葉かもしれません。

 

 

 

続いて北条家サイド。

 

いつも通りの北条綱成さん。

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何気に怖い北条幻庵さん。

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更に……ダブルサプライズがありまして。

 

 

北条家大勝利と思いきや、幽魔の大量発生で一転大ピンチになってしまったその時。

 

意外な二人北条氏康さんを救いに駆けつけるのですよ。

 

 

 

 

 

……終盤のピンチに登場する援軍とくれば。

 

私は、「おっ、義元さんと信玄さんか!?」「だよね、河東の乱でオイシイとこ取りしっ放しで終わらないよね」等と展開を想像していたのですが。

 

想像していたのですが…………

 

 

 

 

援軍その①、北条氏康の妻、瑞渓院さん。

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援軍その②、なぜか生きている北条氏綱さん。

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笑いました。

「マジか」「やられた」「一本取られた」と唸ってしまいました。

 

 

やー、氏綱さん、「激闘、河越城」ガチャに混じっているから変だなとは思っていたのですが。

河越夜戦イベントということで、当然死んではるもんだとばっかり。

 

ちなみに義元さんと信玄さんは現れませんでした。

ということは義元さんは氏綱さんが生きているのに河東の乱なんて企んだんですね

すげぇ。

 

 

瑞渓院さんの濃すぎる活躍ぶり、超よかったです。

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201Xの瑞渓院さんいいですね。

 

氏康さんは若干大変かもしれませんが、

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義父の氏綱さんからすれば誠に頼もしいお嫁さんでけっこうなことかと思われます。

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前に読んだ本では今川義元さん寿桂尼さんの子どもじゃないよ説が出ていましたので、本当に瑞渓院さんと義元さんの関係は悪かったのかもしれません。

そして、同じく氏康さんには複数の側室がいらっしゃいますので、201Xの世界線ではろけっと砲が吹き荒れていて大変かもしれませんね。

「北条氏康の妻 瑞渓院 政略結婚からみる戦国大名」黒田基樹さん(平凡社) - 肝胆ブログ

 

 

 

最後にいつも素敵なまつりさんで締めです。

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働く女性としてのスタンスや強さや楽しそうさに憧れます。

 

 

 

河越夜戦といえば、川越の界隈はさいきん観光も絶好調のようですし何よりですね。

 

そのうち201Xと観光地がコラボしてインバウンド観光客を混乱させてくださいますように。

 

 

 

「戦国武将のアピールポイントとは 理想像から共感の対象へ?」知恵泉(NHK Eテレ)の松永久秀特集より

 

NHK Eテレの「先人たちの底力 知恵泉」という番組で「ヒールの言い分!時代劇定番の大悪人 松永久秀」という特集がされていて、三好長慶松永久秀の主従愛アピールが半端なくてかんたんしました。

 

 

↓'19/2/5に再放送があるそうです。

www4.nhk.or.jp

 

 

テレビなのでちょいちょい分かりやすさを最優先した演出や表現になっていたものの、出演者のトークコーナーも含め、総じて面白い内容でしたね。

 

「愛する主君」「愛する長慶」「長慶の面影を求めて信長に接近」等々、エモーショナル過多な表現に笑いました。

泉下で三好実休さんや三好長逸さんが「誰がNo.2やねん」「三好三人衆かて長慶様を愛してたわ」「なんでいつもいつも久秀だけ」等とお怒りになっているような気がしないでもありません。
(これはこれで三好一門と松永久秀さんの軋轢ぽくて面白いのですが)

 

 

信長の野望・大志といい、さいきんの三好家の取り上げられ方はなぜか「愛」アピールが強い傾向になってきました。

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愛する人は他にもいたんだけどいまは久秀だけだよと言い残して逝く長慶さん)

(やはり長逸さんの立場はない)

 

 

 

※ここからは完全に私見です。

 

 

番組でも取り上げられていましたが、歴史上の人物の注目度や取り上げられ方は、現代サイドの世相を反映しているところがございます。

 

とりわけ戦国時代は人気が高いところでして。

 

織田信長さんであれば、古くは「勤皇」、昭和後半くらいから「革新」、最近は「保守と革新の融合」みたいな感じで、なんだかんだ理想的なリーダーの特徴を常に見出されている気がします。

豊臣秀吉さんであれば「出世王」、徳川家康さんであれば「偉大なる創業者」。

武田信玄さんならば「統率者・内政巧者」、上杉謙信さんなら「カリスマ」、毛利元就さんなら「謀多きは勝ち」。

あるいは、山中鹿之助さんや真田幸村さんの「敗れた者たちの意地」、高橋紹運さんや鳥居元忠さんの「次に繋がった殉」、花の慶次さんの「華も実もある自由」等々。

 

共通するのは、タイプはそれぞれなれど、いかにも社会人の理想像を仮託されている感がありますよね。

現代のビジネスパーソンや行政パーソンも、一口に有能と言っても色んな有能の形がございますから、戦国時代の多くの武将の中から、自分の理想像に近い人を探すのも楽しい歴史との接し方でありましょう。

 

 

一方で、平成後半頃から歴史の楽しみ方にも幅が出てきておりまして。

 

特定の個人というよりは、鎌倉武士のアナーキーさや末法の極み感、室町時代の混沌と胎動といった、時代時代の空気感自体を楽しむ人が増えてきましたし。

 

個人に対しても、「理想像としての戦国武将」に加え、「共感できる対象としての戦国武将」のようなアプローチが盛んになってきましたよね。

最上義光さんの鮭ネタや小田氏治さんの不屈ネタや毛利元就さんの手紙長いネタや織田信長さんのだんだん字が小さくなる手紙ネタ等に代表される「かわいい」「愛しい」概念の勃興であったり。

具体的な作品名やカップリングは挙げませんが特定主従・戦友の組み合わせに着目した「尊い……」「好き……」概念の旋風であったり。

 

それ以外にも共感を飛び越えてもはや何の対象なのか歪んだ性欲なのか何でもいいのかでも確かに格好いいな/かわいいなみたいな擬人化コンテンツの急成長等もありますがそれはそれとして。

 

なんしか歴史に親しむ裾野が広がるのはいいことだと思うのです。

(番組に出ていた伝統的コンテンツ「講談」も好きです)

 

 

 

そんな中、局地的に注目を集め始めている三好主従愛ネタ。

史実的なことはさておき、これも現代の何がしかの空気にフィットしているということなのでしょうか。

 

これって、天野忠幸氏やコーエー社が初めから何もかも意図的に仕組んでいた訳ではないと思うんですよね。

 

研究者の方々が、真面目な研究の結果として、従来のイメージと違う面を取り上げた。

信長の野望等のコンテンツが、そういった内容を試しに反映してみた。

そうしたら、思った以上にユーザーからの反響があった。

反響があったから、研究者も、クリエイターも、更に掘り下げてみた。

また反響があった……また掘り下げた……

やがて人々はこう名付けた……「愛」……これにはフロイスさんも感涙……

 

みたいな感じで、ある種自然発生的に強化されてきた流れだと思うんですけど。

自然発生的だからこそ何がしかの共感を集めているということなのかなあと。

 

 

……低成長、むしろマイナス成長な時代だから?

登場人物全員不幸みたいな三好家に共感できて?

登場人物全員不幸な中でこの愛だけは永遠的な?

 

????

 

 

まあ、松永久秀極悪説の反動で注目されている面も多分にありますし、そんな中で忠臣とか愛とかの言葉を付加すれば余計に面白いというのも大きいのでしょうけど。

 

 

「不幸だけど美しい」みたいな概念が支持される時代になっていってるのかなあ。

だったら再び平家物語とか江戸時代の心中ものとかが復権したり……?

これから我々はどんな時代を生きて、どんなコンテンツが喜ばれる時代になっていくのでしょうね。

 

 

 

とりあえず、世の中で三好主従愛ネタが受け入れられていくのなら、研究者の方々におかれましては久秀さんだけに傾斜せず、一次史料から長慶さんの本命を特定してくださいますように。

歴史的事件の真相とかよりも、この人がいちばん好きだったのはこの人に違いないみたいな論争の方が盛んな世の中になったらアバンギャルドでいいですねえ。

 

 

大相撲'19初場所感想「長年の苦労が報われる喜び、そしてその後」

 

2019年の大相撲初場所

稀勢の里関の引退に始まり、豪風関の引退、相次ぐ怪我と休場……とつらい内容が続きましたが、最終的には玉鷲関が爽やかな初優勝を決めてくださり春の訪れを感じるような空気で終えることができてかんたんしました。

 

www.sumo.or.jp

 

 

幕内の勝ち越し勢は次のとおりです。

 

 13勝 玉鷲(優勝、殊勲賞、敢闘賞)

 11勝 貴景勝(技能賞)

 10勝 白鵬※途中休場、魁聖、遠藤、阿炎

   9勝 豪栄道、高安、北勝富士、宝富士、大栄翔、佐田の海、勢、矢後

   8勝 御嶽海(殊勲賞)、千代大龍、阿武咲、明生、朝乃山

 

 

玉鷲関おめでとうございます。

しかも優勝した日に次子が誕生されるとは……!

ご本人も家族も部屋の皆さまもファンも感動ひとしおだと思います。

彼のように、地道に、まじめに、コツコツと稽古して成果を上げてとやってきた力士がこのような栄光を勝ち取ったのは、非常に嬉しい。

これからも長く活躍してほしいですし、気持ちの良い突き押し相撲を貫いてほしいと思います。あのおとなしそうなのに負けん気が強そうな取り口がイイんですよね。

 

貴景勝関は大関昇進が見送り、来場所持ち越しとなって残念でした。

みんな今日千秋楽の負け方がよくなかったと言ってはりますが、私は貴景勝関が悪かったというより豪栄道関が良すぎただけだと思います。

大関の意地と言われていた通り、ベスト豪栄道がよりにもよって今日のこの日に現れた訳で、ベスト豪栄道横綱クラスの力があるんですからそれに負けたからといって印象点を下げられるのはあまりにも気の毒ではないでしょうか。

 

白鵬関の休場も残念でした。

序盤の綱渡り勝利の後、中盤は調子よさげでしたから、優勝はまあ白鵬関だろうと思っていたのですが……。

稀勢の里関がいなくなって、モチベーション面でも心配です。

鶴竜関もシレッと休場しているし。

栃ノ心関、千代の国関、琴勇輝関、十両に落ちた隆の勝関と、怪我人続出ですし。

世代交代云々以上に、みんなの満身創痍感がひどい。

 

 

稀勢の里関の引退……。

彼もまた、かつて長年の苦労が報われて、多くの人から共感や称賛を浴びた方です。

それなのに、ここ最近の彼のバッシングされようはあまりにも気の毒で、見ていられなかったですね……。

偉くなること、頂点を極めることのリスクを人々にまざまざと知らしめてくださったようにも思えます。

 

相撲に限りませんが、長年の苦労が報われる喜びの素晴らしさを、その後の失敗や低迷ばかりに目を取られて忘れてしまってはもったいないですよね。

稀勢の里関や豪風関が活躍していたあの頃を、私は忘れないようにしたい。

 

 

そう、豪風関と言えば、尾車部屋では矢後関がご活躍であります。

彼は相撲もいいし、顔や声もいいですね。

今後が楽しみです。

 

 

今後も去っていく人、上がってくる人が続くと思われますが、なんしか怪我がもう少し減ってくださいますように。

玉鷲関の喜びが長く続き、よい力士人生をまっとうできますように。

 

 

 

定点観測:相撲界の毛利三兄弟

 

 若隆元 5勝2敗(幕下四十枚目)

 若元春 7勝0敗(幕下三枚目、優勝)

 若隆景 7勝8敗(十両五枚目)

 

若元春さんおめでとう!