肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

小説「浮雲 感想 主人公の高学歴童貞っぽさがすごい」二葉亭四迷さん(新潮文庫)

 

二葉亭四迷さんの「浮雲」を読んでみましたら、主人公の高学歴&女性経験ゼロからくる謎の上から目線感ですとか、ヒロインの流行に流されてそれっぽく生きている感ですとか、ライバルの典型的な世渡りうまい嫌なやつ感ですとか、ヒロインのお母ちゃんの典型的なやかましいお母ちゃん感ですとか、人間模様何もかもが写実的でかんたんしました。

のちの自然主義小説や私小説に通じるものがある気がいたします。

 

言文一致なところが近代小説の先駆と呼ばれたりしているそうですが、当作品の「言」は現代の「ですます」や「~だ」等の標準語ではなくて江戸弁や明治期東京弁ですので、現代人にとって取っつき易そうでそうでもない、でも落語や浮世絵のト書きに近い味わいが楽しい、という読み味です。

 

www.shinchosha.co.jp

 

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谷口ジローさんのイラストに惹かれて新潮文庫版を購入しました。

こういう、インテリっぽくて物思いに耽っている感じの青年が主人公です。

 

新潮文庫版は脚注や巻末解説・二葉亭四迷さん紹介文もイケているのでおすすめ。

 

 

以下、ネタバレを含みますのでご留意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語の流れをざっくり説明しますと、

  • 主人公が公務員をクビになる
  • 下宿先の叔母が冷たくなる
  • 下宿先の娘との関係もギクシャクする
  • 元同僚は世渡り上手で順調に出世する
  • 下宿先の叔母と娘は元同僚と仲良くなる
  • 元同僚は娘を口説くが振られる
  • 主人公と娘の関係も回復せず
  • 完!(未完!)

 

という流れです。

 

ご覧の通り、物語としては特にハッピーエンドでもバッドエンドでもなく、特にいいことも大逆転も大失敗も起こらないまま終了しますので、どちらかというと場面場面の秀逸な人間描写を楽しむ系の作品と言えましょう。

 

特にオチやイベントがないまま終了するのも含めて、実際の人生らしいリアリティがあっていいんじゃないかなとも思います。

なんとなく登場人物それぞれの先行きも充分想像できますし。

 

 

 

テーマ的には、

主人公は苦労して立派な学問を修めた青年でして、そんな彼がただただへつらいやおべっかができない、女性にも気の利いた言葉をかけられないというコミュ障っぷりだけが理由で社会で成功できない、

一方のライバルは口八丁手八丁の嫌なやつでして、上司に媚びへつらい、女性にぺらぺらと軽口をたたいて栄達していく、

こんなんでいいのか明治社会!!

 

的なものを感じさせます。

現代にもそのまま通じる、良いテーマですね。

 

 

個人的には「難易度の高い学問を修める」「品質の高い技術を磨く」といった努力は尊いけれど、それだけで社会での栄達まで求めてしまうのは世間知らずな時期特有の傲慢だと思いますし、社会が人間同士インタラクティブなものである以上は「相手を理解しようと努める」「相手が喜ぶ振る舞いに努める」というコミュニケーション面の努力も欠かせないものだと思いますので、この作品の主人公には高学歴大学生や意識高い若手社会人っぽい幼さを感じてなりません。

 

でも、そんなことを言う私も含めて誰もがそういう時期を経験して大きくなっていくのですから、この作品の主人公の幼さには大変あるある感を抱き、かわいく感じてしまいます。

「こんなやつおったなあ」味が強いといいますか。

 

主人公もどこかで師や友人に恵まれて幸せになれるといいんですけどね。

 

 

 

 

いくつか名セリフの抜粋を。

 

 

主人公の文三さん。

ヒロインお勢さんがライバル本田昇さんと遊びに出かけて一人悶絶。

「イヤ妄想じゃ無い、おれを思っているに違いない……ガ……」

そのまた思ッているお勢が、そのまた死なば同穴と心に誓った形の影が、そのまた共に感じ共に思慮し共に呼吸生息する身の片割が、従兄弟なり親友なり未来の……夫ともなる文三の鬱々として楽まぬのを余所に見て、行かぬと云ッても勧めもせず、平気で澄まして不知顔でいる而巳か、文三と意気が合わねばこそ自家も常居から嫌いだと云ッている昇如き者に伴われて、物見由山に出懸けて行く……

「解らないナ、どうしても解らん」

 

この、

  • ヒロインは俺のことが好きなはず
  • 俺のことが好きなヒロインは俺の機嫌を最優先するはず
  • 俺の機嫌を最優先するはずのヒロインが俺の嫌いなライバルと出かけるのはなぜだ?
  • 解らないナ、どうしても解らん

 

という、無駄に自分への自信があって、無駄に女性に対して上から目線で、身勝手極まりないロジックを振りかざしていることに気づかないまま悩んでいる高学歴童貞臭さがたまんないすね。

若くて頭のいい男の振る舞いって、明治時代からあんまり変わっていないんだなあ。

 

 

 

ヒロインのお勢さん。

最序盤、主人公文三さんに向かって。

「アノーなんですッて、そんなに親しくする位なら寧ろ貴君と……(すこしもじもじして言かねて)結婚してしまえって……」

 

周りから、(まだクビになっていない)主人公と結婚したらいいと言われましたと、文三さん本人にもじもじ話すヒロイン。

これは童貞には刺激が強過ぎます。

しかもヒロイン本人は別に大ごとには思っていなくて、ただ話題的に気恥ずかしくもじもじしていただけ、別に主人公に惚れている訳ではありません、という事実も残酷。

 

 

 

 

ライバルの本田昇さん。ヒロインお勢さんに言い寄って。

「邪魔の入らない内だ。ちょッくり抱ッこのぐい極めと往きやしょう」

と白らけた声を出して、手を出しながら、摺よッて来る。

「明日の支度が……」

とお勢は泣声を出して身を縮ませた。

「ほい間違ッたか。失敗、々々」

 

手籠めにしようとしながら、拒否られたらサッと手を引っ込める。

セクハラを巧みに冗談で済ませる調子者のあくどさがビビッドですね。

それにしても「抱ッこのぐい極め」という表現が新鮮です。

 

 

 

下宿先の叔母さん。

主人公文三さんからクビ(御免)になった、仕方ないっすと報告を受けて。

「イエサ何とお言いだ。出来たことなら仕様が有りませんと……誰れが出来した事たエ、誰れが御免になるように仕向けたんだエ、皆自分の頑固から起ッた事じゃアないか。それも傍で気を附けぬ事か、さんざッぱら人に世話を焼かして置て、今更御免になりながら面目ないとも思わないで、出来た事なら仕様が有ませんとは何の事たエ。それはお前さんあんまりというもんだ、余り人を踏付けにすると言う者だ。全躰マア人を何だと思ッてお出でだ、そりゃアお前さんの事たから鬼老婆とか糞老婆とか言ッて他人にしてお出でかも知れないが、私ア何処までも叔母の積だヨ。ナアニこれが他人で見るがいい、お前さんが御免になッたッて成らなくッたッて此方にゃア痛くも痒くも何とも無い事たから、何で世話を焼くもんですか。けれども血は繋がらずとも縁あッて叔母となり甥となりして見れば、そうしたもんじゃア有りません。ましてお前さんは十四の春ポッっと出の山出しの時から、長の年月、この私が婦人の手一ツで頭から足の爪頭までの事を世話アしたから、私はお前さんをご迷惑かは知らないが血を分けた子息同様に思ッてます。ああやッてお勢や勇という子供が有ッても、些しも陰陽なくしている事がお前さんにゃア解らないかエ。今までだッてもそうだ、何卒マア文さんも首尾よく立身して、早く母親さんを此方へお呼び申すようにして上げたいもんだと思わない事は唯の一日も有ません。そんなに思ッてるとこだものヲ、お前さんが御免にお成りだと聞いちゃア私は愉快はしないよ、愉快はしないからアア困ッた事に成ッたと思ッて、ヤレこれからはどうして往く積だ、ヤレお前さんの身になったらさぞ母親さんに面目があるまいと、人事にしないで歎いたり悔んだりして心配してるとこだから、全躰なら『叔母さんの了解に就かなくッて、こう御免になって実に面目が有りません』とか何とか詫言の一言でも言う筈のとこだけれど、それも言わないでもよし聞たくもないが、人の言事を取り上げなくッて御免になりながら、糞落着に落着払って、出来た事なら仕様が有りませんとは何の事たエ。マ何処を押せばそんな音が出ます……アアアアつまらない心配をした、此方ではどこまでも実の甥と思ッて心を附けたり世話を焼たりして信切を尽していても、先様じゃア屁とも思召さない」

 

この長文の愚痴交じり説教!

映画や舞台だったら役者さんが失神してしまいそうな長ゼリフです。

「だから上司の機嫌をもっと取れと前から言ってただろうがこのボケェ」と、真っ当なことを言っているのは言っているんですけどね。

上の人にだけ気を遣うのはいまいちですが、真っ当な社会人としては同僚やお客さま、取引先等、関係するステークホルダーそれぞれへの気配りは必要だと思います。

 

いかにも如才なく世間で上手くやっている下町の女傑っぽくて好きな長ゼリフです。

 

 

 

かように、「浮雲」は友達の恋話とか親戚の愚痴とか近所の世間話とかを逐一聞いているような、ものすごい写実性があって読んでいて面白かったです。

 

高い知性や教養と、柔軟な積極性やコミュニケーション能力とを併せ持つ、タフな青年が増えていきますように。

 

 

 

フリゲ「ASTLIBRA~生きた証~ 攻略した感想 製作者さんの生きた証的な情熱を感じた」

 

外伝版のミニ作品が先行リリースされていたフリーのアクションRPGゲーム「アストリブラ」本編がいつの間にかリリースされていて、プレイしてみたら大変な傑作でまさに製作者さんの生きた証的な情熱を感じてかんたんしまして、本編を2週、ついでにmini外伝版ももう1週してしまいました。

 

 

↓製作者さんのHP。

www.keizo.games

 

 

↓ダウンロードできるHP。投げ銭もできますよ。

freegame-mugen.jp

 

 

 

以下、少しネタバレを含みつつ内容を紹介していきますのでご留意ください。

 

 

 

 

 

 

 

OP画面。

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ロード画面。

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難易度は「適正」で1週、「地獄」でもう1週プレイしました。

 

難易度は途中で変更できません。

2Dアクションゲーム初心者やサクッと攻略したい方は難易度を下げるといいのですが、難易度を下げるほどやり込み要素を収集しにくくなりますので、アイテムやスキルの取り逃しが気になる方は「適正」以上でプレイすることをおすすめしますよ。

 

 

 

 

主人公は超イケメンという設定です。

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そしてヒロインは超美少女という設定です。

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物語をものすごくざっくり説明すると、行き別れたヒロインを探し求めて主人公が大変な苦労をするという流れです。

全9章の物語を通じて主人公が辿った旅路それ自体が主人公の「生きた証」的美しさがあって素敵なんですよ。

 

 

 

幼少時からブレることのない主人公の意志の強さが大好きです。

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主人公の相棒を務めるのは烏っぽい生き物のカロンさん。

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主人公と強い絆で結ばれています。

俗っぽい一面もございますが、いつも主人公の幸せを願っている親のような親友のような人格の存在でして、全登場生物の中で私はカロンさんが一番好きだな。

 

カロンさんの存在を前提にした技やスキルが多いので、カロンさん不在の局面ではシナリオだけでなくアクションゲームとしても苦労することになるのが上手くできていると思います。

 

 

 

そして、物語の核となるのが神器である「天秤」。

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使用することで、なんと歴史を改変することができます。

都合の悪いできごとをなかったことにできてしまうというハチャメチャな神器の存在が、さまざまな重厚ドラマを招いていくのですよ。

 

勘のいい方はピンとくるかもしれませんが、過去を変えたくなるような悲惨なストーリー展開があるということでもあります。

私はインディーズ特有のグロ表現や少年少女がつらい目に遭う展開……が好きではないので、この点は当作品を万人におすすめすることを躊躇してしまうポイントです。

まあ、最終的にはハッピーになりますし、「天秤」の重みを表現するためにもキツい絵面が必要なのは理解できるんですけどね。

将来、ジェンダーレスやエイジレスの感覚が更に変わっていくのかもしれませんが、2021年現時点では成人男性のモヒカンがあべししても受け止められるけど、女性や子どもやお年寄りの肉体が露骨に傷つくような表現は受け止めにくい……のが本音であります。

 

ただ、そんな生理的に苦手な展開も含め、この作品の主人公が挫けずに前に進んでいく姿は本当にイケメンで美しいので、一部グロい展開があるからと言ってこの作品を避けるのもまたもったいない……と思ってしまうのも本心なんですよね。

 

 

 

ちなみに、エロさや性癖を感じるシーンもあります。ふんだんにあります。

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そうとう露骨な画像もあるので、気になる方はプレイしてみてくださいまし。

インディーズ特有のいかがわしい表現、まったくけしからんですね。

 

 

 

 

それにしてもこのゲーム、景色がいい。

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画像では分かりませんが、BGMやSEも超いいんですよね。

操作性の良さや爽快感の高さと相まって、心地よくて仕方ない。

 

さまざまなフリー素材のお力を借りているようですが、製作者さんの構成力レベルそのものがめちゃくちゃ高いと思います。

mini外伝の時点でめちゃくちゃハイレベルやなあと唸っていたのに、本編だと更に数段クオリティが高くて本当に驚きました。

 

 

 

各章のあいだに流れるメインムービーも素敵なんですよ。

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ムービーでは、「藤崎わと」さんという方の「Memoria“君の赴くままに”」という歌が流れます。

www.nicovideo.jp

 

私はボーカロイド曲や「歌ってみた」カルチャーに疎いのでしっかりした評価はできませんけど、とても素敵な歌声と歌詞やなと思いました。

ゲームではこの歌詞に沿った演出が随所に見られますので、製作者さんの強い思い入れを感じます。

 

 

 

製作者さんの強い思い入れという点では、アクションやシューティング等、名作ゲームへのリスペクトを感じるのも好き。

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単なるパロディというより「製作者さんが好きなものを入れずにはおれなかった」感があっていいんですよね。

こういう属人的な情熱こそ、インディーズゲームの一番の魅力だと思います。

 

 

 

 

攻略的なチップスに少しだけ触れますと。

 

 

おすすめの憑依技は「聖」属性と「風」属性です。

当て方にコツが要りますが「闇」属性も強力ですね。

 

「聖」属性の最強技「斑鳩」。

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憑依技は「GROW」メニューから習得していきます。

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GROWに必要なフォースは敵を倒したり食事をしたりで得ることができますが、各属性のフォースを交換できたりもします。意外とこの機能、見落としがちなんですよね。

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おすすめのKARON(スキル)は色々ありますが、生存能力を格段に高めてくれるエナジードレイン、使っていて楽しいタタミリフレクトあたりは特におすすめです。

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奥義は、個人的には「エアブレイド」「バックステップ」「カウンターバッシュ」以外は封印してしまって暴発を防ぐ方がいいんじゃないかな……と思っています。

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特に「エアサーフ」は暴発してピンチになることが多かったです。

初期技の「シールドバッシュ」もタタミリフレクト入力ミス時に暴発するので封印してしまいたいくらいですが、仕様上封印できないんですよね。

 

 

 

「エアブレイド」はアクションとして楽しいし威力もかなりあるので好き。

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あと、終盤のクエストで全ての武器・防具を集める展開があるのですが。

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前作主人公のような存在のお爺ちゃん。

なんでもできそうなのになんにも手伝ってくれないのは何か理由があるのだろうか。

 

 

 

全防具のうち、私が最後まで見過ごしていたのは「石像の盾」でした。

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一度吹雪で立ち往生すると入手できるようになるようです。ご参考まで。

 

 

 

 

あとは、mini外伝プレイ済みの方にとって嬉しい要素も。

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あらためてmini外伝を地獄でクリアしてみたのですけど、このパン屋の娘さん、何者なんでしょう……。

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本編主人公のイケメンより、明らかにフィジカルもマジカルも強いような……。

箒一本で魔物の大軍を止めてしまうし、ポリンさんがいなくても各種スキルを発動できるし、唱える魔法は神々と同等以上のレベルだし、ステータスの伸びもすごいし、デカい武器持ってても盾を装備できるし、強さの理由は「素質」としか説明されていないし……。

 

リヒターさんに対するマリアさんのような感じなんでしょうかね。

 

それにしても本編終盤、アレキサンドライトを手に入れていったい何をしようとしているんだろう?

あんがい別の神々と別の物語でも進めているのかもしれませんね。

 

 

 

 

アクションRPGとしての完成度、ゲームから伝わる熱量、いずれをとっても凄い作品だと思います。

 

近い将来、製品版としてグレードアップしたバージョンも発売されるそうで。

より万人に愛される作品に仕上がって、製作者さんの努力や情熱がまっとうに報われますように。

 

 

おすすめのフリゲ「astlibra(アストリブラ) mini外伝 ~幻夢の洞窟~」KEIZOさん - 肝胆ブログ

 

「ASTLIBRA Revision 追章まで攻略した感想 大人のゲーマーほどプレイしてみてほしい」 - 肝胆ブログ

 

「天下人の誕生と戦国の終焉 感想」光成準治さん(吉川弘文館 列島の戦国史⑨)

 

列島の戦国史シリーズ最終巻「天下人の誕生と戦国の終焉」で描かれた戦国時代の終焉が、これまでのシリーズ既刊同様、漸進的に歴史が進んでいった様子がよく分かる内容でかんたんしました。

 

この9巻に及ぶシリーズは、各地域や文化面、外交面等の幅広な要素に目配りしながら戦国時代がゆっくりと変容していく流れを緻密に説明してくれていて、単純な「誰それのせいで戦国時代になりました」「誰それのおかげで戦国時代が終わりました」みたいな物語ではなく、複雑で立体的な人間の歩みように向き合えたような読み味があって大変満足いたしましたね。

 

 

www.yoshikawa-k.co.jp

 

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秀吉の天下一統~徳川政権確立の政局をたどる。兵農分離の実像や芸能など、社会と文化にもふれながら「天下人」の時代を見渡す。

 

 

 

まず、細かめに目次を引用いたします。

 

分立から統一へ―プロローグ

    地域国家の到達点

    地域国家の限界

    東アジア国際秩序の変容

    信長から秀吉へ

 

一 秀吉の天下一統

 1 織田体制の超克

    山崎の戦い

    清須会議

    賤ヶ岳の戦い

    小牧・長久手の戦い

    家康の服属

 2 全国制覇の達成

    和泉・紀伊攻撃

    四国出兵

    越中出兵

    九州出兵

    小田原合戦と「取次」

    奥羽仕置と「取次」

 3 豊臣政権と朝廷・寺社

    秀吉の関白任官

    聚楽第行幸武家家格

    公武結合王権

    豊臣政権の宗教政策

 

二 豊臣政権の政策

 1 大名統制と「取次」

    「惣無事令」論

    山城停止令と城破り

    粛清された大名

    「取次」の役割

 2 太閤検地と身分政策

    太閤検地封建革命説

    大名領国における検地

    刀狩りの目的

    身分法令と武家奉公人

    人掃令と土地緊縛

    日用停止令

 3 経済流通政策

    貨幣政策

    鉱山統制

    石高制の意義

    海賊停止令と貿易統制

 

三 朝鮮侵略と豊臣政権の動揺

 1 豊臣政権下の対外認識

    蠣崎氏と蝦夷

    豊臣政権と琉球王国

    「惣無事」の拡大

    「日輪の子」と神国思想

    バテレン追放令

    諸大名の対外認識

 2 「唐入り」と朝鮮半島における戦闘

    第一次侵略と秀吉の軍令

    講和交渉の展開

    講和交渉の破綻

    第二次侵略と政権崩壊の萌芽

    「唐入り」が東アジアに残したもの

 3 豊臣政権の動揺と大名

    太閤と関白

    秀次事件の真相

    豊臣期の徳川氏領国

    大名領国における変革

    豊臣期の国制と大名領国

 

四 豊臣政権の末路

 1 秀吉から家康へ

    秀吉死没前後の豊臣政権

    親家康・反家康

    七将襲撃事件

    「天下殿」家康

 2 関ヶ原の戦い

    会津征討

    石田三成の挙兵と家康の真意

    関ヶ原における戦闘突入の真相

    虚像化した関ヶ原

 3 私戦の復活

    奥羽・北陸における私戦

    毛利輝元

    黒田如水加藤清正

    旧領を狙う戦国大名・領主

 

五 徳川政権の成立

 1 徳川政権への道

    関ヶ原の戦後処理

    家康の将軍就任

    秀忠への将軍職譲与

    二元的政治と政権内の権力闘争

 2 初期徳川政権の国内政策

    都市支配

    鉱山の直轄化

    村落支配

    対朝廷政策

    大名統制

 3 初期徳川政権の対外政策

    島津氏と琉球王国

    琉球侵略

    松前藩アイヌ社会

    日朝講和と日明講和

    朱印船貿易キリシタン禁令

 

六 大坂の陣と地域国家

 1 二重公儀体制と大名

    「二重公儀体制」論

    関ヶ原の戦い後の豊臣氏

    豊臣系大名の動向

    敗者復活

 2 大坂の陣

    二条城会見

    大坂の陣勃発

    豊臣氏滅亡

    大坂の陣の戦後処理

 3 徳川政権と地域国家・朝廷

    初期御家騒動

    一国一城令

    武家諸法度

    禁中幷公家中諸法度

    「藩国」と「藩輔」

 

七 「天下人」の時代の社会と文化

 1 町 と 村―兵と農

    「天下人」の城郭と城下町

    伏見城大坂城

    大名の城郭と城下町

    兵農分離の実像

    村落共同体と法

    百姓成立

 2 「桃山」文化と伝承された「桃山」時代

    豪商と茶の湯

    「桃山」建築と障壁画

    「桃山」期の庭園

    儀礼と芸能

    描かれた「桃山」時代・記録された「桃山」時代

 

「天下人」の時代から幕藩制国家へ―エピローグ

    神となった「天下人」と藩祖の神格化

    元和偃武

    近世的身分制度

    東アジア社会の変動と日本型華夷秩序

 

あとがき

参考文献

系図

略年表

 

   

盛りだくさんですね。

 

 

広く目を引きそうなのは、関ヶ原の戦いに関する最近の研究の反映でしょうか。

伝統的な関ヶ原の戦いイメージが近年かなり覆されてきていますので(小早川秀秋さんは初めから東軍で参戦していた、徳川家康さんの一連の行動はかなりヒヤッヒヤだった等)、興味のある方はこの本も含め当たってみるといいように思います。

 

同じように、成否や評価はともかくとして、毛利輝元さんに対する考察も近年たいへん深くなっているので興味深いですね。

関ヶ原の戦い時、総大将として関ヶ原方面へ進出するのではなく、ちゃっかり瀬戸内海権益を広げよう(取り戻そう)と各地に出兵しているしたたかな姿など、この時代の毛利家にはわくわくさせられる要素が多いと思います。

著者から、豊臣期時点では石見銀山利権をいまだ毛利家が保持していたことを踏まえ、「文献には残っていないが、石見銀山の銀産出量を踏まえれば、おそらく博多商人と手を組んで闇の対外交易をしていたのだろう」と推測されている点も好き。

 

 

 

個人的に印象に残ったのは

  • 豊臣期の「取次」重視制度から徳川期の「法治」重視制度への変化
  • 豊臣政権や初期徳川政権が、まだまだ全国統一的な政策徹底には至っていなかったという事実
  • 豊臣期や徳川期の研究から急に頻出するようになる「公儀」というワードが、まさしく戦国時代の終焉期ならでは感があって感慨深い
  • 関ヶ原の戦い期における「私戦の復活」という言葉から感じる重さ
  • 桃山文化に対する解説
  • 藩祖(鍋島直茂さんや毛利元就さん)の神格化って、江戸時代中期になってからだったんですね

 

等です。

 

 

とりわけ豊臣期の「取次」論は興味深いですね。

石田三成さんに代表されるような豊臣政権の「取次」担当者の裁量次第で各大名への介入や粛清の程度が大きく変わった、豊臣政権は複数の「取次」ルートを競争させながら各地域を安定化させようとしていた、そのことが逆に豊臣政権の不安定化の一因にもなった……的なやつです。

千利休さんに代表される御用商人衆もまた「取次」担当者の一角として扱われていて、利休さんの粛清は奉行衆に「取次」の役目が寄っていったためではないか……という文脈も面白い。

 

このシリーズではない別の最近の研究では細川京兆家の「取次」論も注目されていたりして、中央権力と取次と地域社会の揉み合わせから突出してきたのが三好長慶さんたちなんだろうとか言われたりもしている訳ですし、戦国時代の権力研究において「取次」論は引続きホットテーマになりそうですね。

 

 

 

また、詳しい方にとっては今更ではあるのでしょうけど、豊臣政権であれ初期徳川政権であれ、全国の諸大名へ等しく政策を徹底できていた訳ではない、という事実はやはり大きいなと思います。

戦国時代がゆっくりと始まったのと同じように、戦国時代はゆっくりと終わっていった。誰か天才が現れたからパッと時代が変わったんじゃないですよ、世の中ってそんなかんたんなものじゃないですよ、というごくごく真っ当な歴史観や世界観を自然と涵養できるこのシリーズ本当に好きです。

 

 

 

あとは文化面ですね。このシリーズは文化面の記述も頑張っているのが実に素敵。

1ページ強ながら庭園文化に触れてくれているのが嬉しかったです。

 

一番「いいなあ」と思った記述は秀吉さんの茶の湯で、

わび茶志向は、障壁画などにみられる黄金志向と対比的なものであるが、秀吉自身の土着性を反映した美意識を示すものとされる(水林一九八七)。

 

というところ。

 

こういう最新研究を反映しまくりな通史解説本において、あえて「美意識」という言葉を使って秀吉さんの志向を解説するという試みは、著者にとってけっこう勇気の要る記述ではないかと思うんですけど。

この一文が加わることで、豊臣秀吉さんという人物像に得も言われぬ個性や人間性が付加されるじゃないですか。

この一文がなかったら、豊臣秀吉さんってスゲェ政治家・武将なんだなというだけになってしまいますからね。

 

色々言われる存在ですけど、私は秀吉さん好きなのでとても嬉しかったです。

 

 

 

 

「列島の戦国史」シリーズ、全巻を通じて大変満足させていただきました。

戦国時代の研究は日進月歩ですし、地域や時代区分での縦割りも激しいしですので、時々こういうシリーズ発刊を通じて知識の統合や共有化が図られたり、新進の研究者方に貴重な機会を提供できたりするといいですね。

 

また10年か20年後くらいに魅力的な戦国時代通史シリーズが発刊されますように。

 

 

「享徳の乱と戦国時代 感想」久保健一郎さん(吉川弘文館 列島の戦国史①) - 肝胆ブログ

「応仁・文明の乱と明応の政変 感想」大薮海さん(吉川弘文館 列島の戦国史②) - 肝胆ブログ

「大内氏の興亡と西日本社会 感想」長谷川博史さん(吉川弘文館 列島の戦国史③) - 肝胆ブログ

「室町幕府分裂と畿内近国の胎動 感想」天野忠幸さん(吉川弘文館 列島の戦国史④) - 肝胆ブログ

「東日本の動乱と戦国大名の発展 感想」丸島和洋さん(吉川弘文館 列島の戦国史⑤) - 肝胆ブログ

「毛利領国の拡大と尼子・大友氏 感想」池亨さん(吉川弘文館 列島の戦国史⑥) - 肝胆ブログ

「東日本の統合と織豊政権 感想」竹井英文さん(吉川弘文館 列島の戦国史⑦) - 肝胆ブログ

「織田政権の登場と戦国社会 感想」平井上総さん(吉川弘文館 列島の戦国史⑧) - 肝胆ブログ

 

 

 

漫画「奈良へ 感想 奈良っぽい」大山海先生(リイド社トーチweb)

 

トーチwebで連載していたシュールな奈良漫画「奈良へ」の単行本が発売されていて、まとめ読みしたら実に奈良っぽい雰囲気が表現されている感じがしてかんたんしました。

 

to-ti.in

 

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「奈良へ」は、現代社会が生きにくい人と、異世界ファンタジーの世界で生きにくい人とが、ともに奈良の町に抱かれていくような漫画です。

 

そう言われても訳が分からないと思いますが、そういう漫画ですし、そういうのが奈良っぽい気がします。

文脈としてはガロとかアックスとかの読み味でございますが、個人的にはそういうサブカルチャーぶって解説するよりも、「こういう空気感が奈良っぽいよね」とローカルな共感を呼ぶ力に満ちている点が魅力だなと思いました。

 

 

 

以下、若干のネタバレを含みますのでお含みおきください。

 

 

 

 

 

 

 

主な登場人物は

  • 売れずに奈良に帰って来た漫画家
  • 奈良在住のパンクス男。仏像が好き。
  • 奈良在住のマイルドヤンキー。寺が好き。
  • 大仏マン。拳銃を所持。奈良を救いたい。
  • ハイン。異世界の航海士。異世界でナメられている存在。奈良に転生してくる。
  • ジョー・セント。異世界の時空の魔神。せんとくん

 

という感じです。

舞台は奈良と、異世界のスポングモインツ国。

 

 

展開はたいがいシュールで、真っ直ぐな物語がある訳ではございません。

それぞれの登場人物について、「この人、生きるのしんどそうやな」とリアルな描写が続くのと、一方で微動だにしない奈良の町とが対比的に、あるいは一体的に描かれていくような作品です。

 

個人的に高く評価したいのがこの点で、

まず作者さんの描く「現代社会の生きにくさ」が絶妙なんですよね。

一般的には「生きにくい人が集まってそう」と思われがちなサブカルチャーの世界でも、サブカルチャー文脈の知識マウントがやたらはびこっていて「やっぱり生きにくい」描写とか超リアル。

 

「世の中の売れてるモノを

 芸術家ぶって、

 批評家ぶって

 馬鹿にし続ける人生はクソや」

「売れる為に

 読者を楽します為に

 陰でどんな努力が

 あったのか」

 

と腹を決めてから、売れそうな異世界ファンタジーの連載を始めるのに、やっぱり異世界の中でも生きにくいサブキャラの描写がメインになっていってしまう流れとかめっちゃアツいなと思います。

 

 

そういう生きにくい人間と対比的に描かれる奈良の街並みがまた超リアルでいいんですよね。

有名な寺社や仏像だけではなくて、ものすごく奈良っぽい田畑や原っぱや用水路や住宅街や近鉄奈良駅前がしっかり描かているのが、地に足つきまくっていて好き。

 

ローカルなニュアンスになりますが、奈良の街並みって、京都ほど寺社が格好よく目立っていなくて風景の中に完全に組み込まれていて、京都と違って寺社から地続きに存在するのはおしゃれな都市ではなくて野原や田畑なんですけれども。

そういう奈良の、すごいものが何の色気もなく視界の中にただ存在していて、すごいものを目指そう的な煽り感が全然なくて、すごくない存在もまたあるがままに許されているような感じ、そういう空気感が確かにあると思うんですけど、そんな空気感を漫画で見たのは初めてなので驚きました。こういう空気感って可視化できんねや……と。

 

「帰る前に商店街行って餅でも食おうや……」

 

というセリフも奈良っぽくてめっちゃ好き。

 

 

 

きれいな絵や楽しい物語がある訳ではまったくありませんし、この漫画を読んだり奈良に住んだりしても生きにくさが解消する訳ではございませんが、人間と奈良それぞれの一面について迫真の切り取りようを味わえるという点で傑作だと思います。

最後にちょっっとだけ救いもありますし。

 

生きにくい事情を抱えた方が少しずつ生きやすい領域を広げていけますように。

奈良の奈良っぽさにハマる人もまた少しずつ増えていきますように。

 

 

 

 

「アンドロメロス 初視聴の感想 凶器ダブルランサーの強さ」

 

80年代の特撮作品「アンドロメロス」を初めて視聴したところ、ウルトラファイトシリーズとはまた違った低予算な楽しさがある上、「凶器って怖いよね」という社会勉強もすることができてかんたんしました。

 

imagination.m-78.jp

 

 

(参考)既に販売終了していたメロスさんのフィギュア

p-bandai.jp

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メタル塗装が格好いいじゃないか。復刻しないかなあ。

 

 

 

私も詳しくないので耳かじった程度の知識ですが、

アンドロメロス」はウルトラマンの親戚的な宇宙人がコスモテクターという鎧をまとって悪者「グア軍団」と戦う、という物語になります。

内山まもるさんのウルトラマン漫画に登場する「メロス」さんをベースに新規製作した作品みたいですね。

 

 

 

こちらの作品、いい意味で大変心に残りました。

 

  • 1話6分
  • 主題歌で1分強を使用、しかもめっちゃ主題歌が耳に残る
  • 回想で2分ほど使用、しかも同じ回想が頻繁に登場する
  • その後少し戦い、少し会話すると「つづく」
  • ユルい会話
  • スタジオセットが大変シャビィ
  • 味方の鎧も敵の鎧も大変シャビィ
  • 敵の得物(斧、サーベル)がダルンダルン

 

等々、現代で放映したら視聴者の前にスポンサーさんがブチ切れそうなパッと見要素がふんだんにあるんですけれども。

 

実際に視聴していると、

まず主題歌の「アンドロメロッス~♪ メロッス~♪」で全てを受入可能なモードに脳が切り替わり。

長い回想シーンを観て「ビデオが普及していなかった時代の子ども目線に立ってて親切やなあ」と感心し。

低予算インフラをものともせずに迫力のある殺陣を観て「大事なのは予算じゃないよね」という気持ちになってアンドロ警備隊と製作スタッフの活躍を応援してしまう。

そのうち「怪獣戦艦の迫力は発明やな!」「グア様の異次元戦法は邪悪過ぎるな!」「アンドロ警備隊のその上をいく強過ぎさが素敵やな!」とむしろアンドロメロス発の要素にハマっていく……

 

というですね。

非常に不思議な、コアでサイケな中毒要素があるんですよ。

特にストレスなく、45話を楽しんで観終えることができました。

 

 

 

たいへん印象に残ったのはアンドロ警備隊、とりわけ主人公メロスさんの強さです。

 

近頃では「ギャラクシーファイト 大いなる陰謀」や各種ステージにも登場して、特に詳しい説明もなく無双されておりますけれども。実際に原典に当たってみたら「メロスさんマジ強いんだな」と納得できること請け合いであります。

 

この作品の敵組織「グア軍団」、首魁のグアさん、大幹部のモルド、ギナ、ジュダの三兄弟、配下の怪獣戦艦や宇宙人やファイティング・ベム等々……

設定を聞く限り、あるいは他のシリーズでの描かれ方を見る限り、ウルトラシリーズにおける大ボス相当の強大な実力をお持ちなんです。

 

その強い敵を、アンドロ警備隊のメロス、マルス、ウルフ、フロルがたった4人でギッタギタにしてしまいますからね。

終盤で伝説の最終兵器「グランテクター」を発見してからは更に戦力が過剰になってしまいますし。

 

 

わけても凶悪なのが、メロスさんの得物「ダブルランサー」の威力。

長い棒の両端にアイスラッガーをつけたような、よく考えたらほぼゼロツインソードな武器なんですけれども。

 

この光り物でぶった切られたら、怪獣だろうが大ボスだろうが即死するんですよね。

ドグシュ(斬る) ⇒ グエー(倒れる) ⇒ チュドーン(爆発する)という、鉄板の処刑シーンが繰り広げられるんです。

 

 

この、「刃物で斬られたら死にます」という生物の原則に則った作劇、あらためて観るととてもいいんですよね。

初期ウルトラシリーズアイスラッガーやウルトラスパークに通ずるというか、時代劇マインドを感じるというか。

 

ウルトラシリーズに限らず、特撮やアニメや漫画の戦闘表現が「一撃必殺」から「連打・乱舞」にシフトしていった関係で、最近のニュージェネレーション作品ではオーブカリバーで斬ろうがタイガトライブレードで斬ろうが敵の致命傷にはならなくて、それはそれで色んな技や展開を楽しめて好きなんだけれども、そうした作劇に充分慣れ親しんだ今だからこそ、ダブルランサーで一刀のもとに強敵を屠っていくメロスさんの強さ格好良さ演出が引き立つなあと思った次第です。

 

 

 

以前観た舞台「博品館劇場ゾフィー編」でゾフィーさんが銀河連邦の皆さまの助力を得ていたり、ギャラクシーレスキューフォースにメロスさんが参加したり、ツブラヤイマジネーションでこうした過去作品をかんたんに視聴できるようになってきたり。

過去のコンテンツの魅力を引き出して、再度活躍いただいているというのは夢のある話だと思います。

(こうした流れがゾフィーさんの魅力深掘りにも繋がっていてとても嬉しい)

 

アンドロ警備隊の掘り下げやリブートがこの調子で今後も進んでいきますように。

 

 

 

短編小説「松山新介重治 あとがき 兼 備忘」

 

 

短編小説「松山新介重治 1/5 松山新介の手妻」 - 肝胆ブログ

短編小説「松山新介重治 2/5 織田信長の依頼」 - 肝胆ブログ

短編小説「松山新介重治 3/5 松永久秀の迷い」 - 肝胆ブログ

短編小説「松山新介重治 4/5 松山新介の稲妻」 - 肝胆ブログ

短編小説「松山新介重治 5/5 織田信長の幸若舞」 - 肝胆ブログ

 

※続編

短編小説「松山新介重治 一万貫の夢 1/5 松山新介 屋根を往く」 - 肝胆ブログ

 

 

 

久しぶりに小説を書いてみました。

小説を書くのは人生で2回目、信長の野望20XXの二次創作を含めれば3回目です。

 

 

山新介重治さんをご存知な方は、

三好家や畿内戦国史のコアなファン、

堺史のコアなファン、

菊池寛さん「形」のコアなファン、

あるいは斎藤利三さんのコアなファン……

くらいではないかと思います。

 

それくらいマイナーな人物ではありますが、調べれば調べるほど(といっても調べる対象の文献があまりないのですけれども)味のあるお方でして、

少なくとも

  • 強い
  • 芸達者
  • 人気者
  • 素性不明
  • からの大出世
  • でも忽然と姿を消す
  • でも後にひょっこり現れる
  • 戦国時代の有名人と絡んで違和感がない
  • いい意味で記録が少ないので創作しやすい

 

といった要素を兼ね備えておられます。

 

雑に言えば三好家版「花の慶次」なポジションですね。

あちらは秀吉さん時代と家康さん時代をまたいで活躍されていますが、

こちらは長慶さん時代と信長さん時代をまたいで活躍できるキャラです。

 

残っているエピソードからも、傾奇者のルーツ的な人なのかもしれません。

 

 

山新介重治さんについての史実研究については、

最近では畿内戦国史の本や記事を読んでいると「三好長慶による家格にとらわれない能力主義の人材登用~」的な文脈で登場することがありますし、

岩倉哲夫さんが「松山新介の人物像と行動」という論文を2020年6月の「和歌山城郭研究 第19号」(和歌山県立博物館で手に入ります)へ寄稿されていますし、

何よりも三好家ファンやウルトラマン(特にUFZ)ファン的に見逃せないサイト「志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』」さんで詳しい記事が書かれていますので、

以前よりも格段にアクセスしやすくなっております。

 

monsterspace.hateblo.jp

 

 

「志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』」さんの三好家記事は、諸将に対する光の当て方が素晴らしいので是非多くの方に読んでいただきたいです。

ちなみに私が特におすすめしたい記事は三好三人衆の概念が一新される三好長逸さんの記事ですね。

monsterspace.hateblo.jp

 

 

この小説も、こうした研究成果からインスピレーションをいただいて書いています。

松山重治さんの史実的な魅力の掘り下げはすべて彼らのおかげであり、

雑な史実解釈や乱暴な創作要素等はすべて私の責任ですのでお含みおきください。

 

 

 

とはいえ、こうした素晴らしい研究成果があっても、それだけではなかなか「小説でも書くか」とはならないですよね。

 

私も「いずれ機会ができたら短編小説を書いてみようかな、その時は松山重治さんを主人公にした歴史ものか、ものすごくいかがわしい官能小説に挑戦したいなあ」と長年ぼんやり考えていたんですが。

 

さいきんプレイした某フリーゲームアクションRPGが大傑作で、しかもそのゲームは製作者さんが素人の状態から10年以上かけて試行錯誤してつくりあげた、まさに製作者さんの生きた証的なものが詰まった熱意あふれる逸品でして、まっことかんたんしたんですよね。

 

そういう偉大なクリエイト魂に触れると、自分も素人ながら「ああ、何か創作してみたいな」という気持ちが湧きまして、今回短編小説に挑戦したという次第です。

これまでに書いた小説も「Ruina」「信長の野望20XX」というゲームプレイをきっかけにしていますので、私はゲーム体験に触発されやすい性癖があるのかもしれません。

 

 

 

初めて書いた小説はうっかり長すぎる作品にしてしまったので、

次に書く小説は短編でサクッと読める作品にしようと思っていました。

 

この作品は全部で約一万字、ワードファイル10ページになっています。

執筆時間は見直しや修正も含めて12時間くらい。

実日数でいえば1日30分~1時間、合計1か月弱くらいの期間でしょうか。

上述のゲームをやるのに忙しくて、なかなか毎日書けませんでした。 

 

事前に年表のような参考資料をつくったりはせず、頭の中でプロットだけ組み立てて、サラサラ書き始めました。

特に、墓参りしている辺りから愛着が湧いてきて書くのが楽になった感じです。

やっぱり登場人物への理解が深まってくると書いていて楽しいですね。

 

できばえは「自分で読む分には面白い」としか言えません……。

読者様的には読みにくかったり分かりにくかったりノリきれなかったりするところ大なりだと思いますから、感想とかイイねとかバッドだねとか、コメント等いただければ勉強になってありがたいです。

 

 

 

最後に、何回か小説を書いてみた感想をひとつ備忘的に。

 

たぶん小説に限らない話だと思いますが、「こういうのがほしかった」というのを自分の手でつくる楽しさもさることながら、「創作の難しさを知って、世の中の創作作品に対するリスペクトと喜びが増した」というのが自分にとって一番の効能だと思います。

(そういう余波でこのブログもやっています)

 

小説を書く前よりも書いた後の方が、インプットが深くなった感覚があるんですよね。

 

私は本もゲームもアートも映像作品も大好きで、世の中には素晴らしい創作作品がたくさんあって、更に(僅かながらも)創作体験を経て「楽しむ深さ」が増したと。

要するに、私の人生幸せ度が格段に増したということなのであります。

たぶん、頭もたくさん使うようになって、ボケ予防にも役立ってると思う。たぶん。

 

なお、私が創作体験を通じてそういうことを学んだだけなので、みんな創作しろオラァ! と言いたい訳ではなく、創作作品の楽しみ方って色んな筋道があるんだね知らなかったわ、という話です。

 

 

 

また気が向いたり刺激を受けたりしたら、松山重治さんの他の時代の話であったり、全然違う作品であったりを書いてみるかもしれません。

 

いずれにせよ私の小説が間口になることはないと思いますが、松山重治さんのファンがぼちぼち増えていって信長の野望に登場したりする日がいつか訪れますように。

 

 

 

 

短編小説「松山新介重治 5/5 織田信長の幸若舞」

 

 

短編小説「松山新介重治 1/5 松山新介の手妻」 - 肝胆ブログ

短編小説「松山新介重治 2/5 織田信長の依頼」 - 肝胆ブログ

短編小説「松山新介重治 3/5 松永久秀の迷い」 - 肝胆ブログ

短編小説「松山新介重治 4/5 松山新介の稲妻」 - 肝胆ブログ

短編小説「松山新介重治 あとがき 兼 備忘」 - 肝胆ブログ

 

 

 

 

夜になって雨が降り始めた。

音もなく舞い降りてくるような雨。周囲の喧騒までが雨に吸い取られたようで、織田信長宿所の妙國寺は静寂に包まれていた。

「松永殿は決心を固めたか」

信長から松山新介への問いかけは率直だった。やはり、新介を使者に立てることで、松永久秀の離反をかえって促すことになることも織り込んでいたようである。はじめから信長もそのつもりだったのか、家臣から色々進言された結果の選択肢なのかは分からない。

「ああ。アンタのことは嫌いじゃなさそうだけどな」

「私も嫌いではない」

「たいしたもんだよ。朝倉浅井に本願寺。東国の武田家まで怪しい動きをしてるってえのに、まだ敵が増えても構わねえってんだから」

「時が惜しいのでな。いずれそうなるなら今がよい」

信長の瞳には意志の輝きが宿っていた。最悪の筋書きを自らの手で進めることに躊躇せず、他の誰よりも先んじて対策を立てる。これこそが信長の傑出した勇気であり、織田家躍進の秘訣なのであろう。

「民草は大事に平穏に扱ってくれりゃあ、織田でも三好でもいいんだ」

「なるほど、その方も早い決着が望みか」

「何年も睨み合って境目で小競り合いして、難儀するのは俺たち庶民だからな」

「松山新介重治が庶民とな」

信長がククと含み笑いを見せた。信長もまた成り上がりであり、こうした格や身分を題材にした冗談がツボに入るらしい。

「なぁ大将。この使いっ走りと前の一件と、俺はアンタに貸しがあるよな。ひとつ頼みを聞いちゃくれねえか」

「ほう。言ってみよ」

「アンタが勝った場合。久秀の死に方は、久秀に決めさせてやってくれないか」

「助命かと思えば、死に方ときたか」

「ああ。年寄りは死に際が大事なのさ」

「それは松永殿の願いではなく、その方の願いなのだな」

「そうだ」

新介は勝敗に介入する気はなかった。ただ、旧友が格好悪く死ぬのは嫌だな、と思っただけである。

「覚えておこう。約束まではできぬ。それに、松永殿の命を軽々と扱いたくもない」

「それで充分だ」

信長の返答には誠意が籠もっていた。熟練の新介にとって、それは何よりも嬉しいことであった。

「……私にも、そういう顔を見せてくれるのだな」

「礼をさせてもらおう。その鼓、貸してもらうぜ」

部屋の違い棚には小鼓が飾ってあった。新介が遠慮なく立ち上がって小鼓を手にし、隅に座って構える。

 

――宙に穴を開けたような音が響いた。

 

それは、信長の知る小鼓の音色ではなかった。思わず新介の姿を凝視する。彼のひときわ大きな手が鼓を打つたび、空に穴が開いたような、開いた穴に意識が吸われるような思いがした。

新介の指先が一層素早く、艶めかしく動く。音は鼓からでなく、部屋のそこかしこの宙から、更には、信長の身体の内から響いてくるようであった。

「我慢することはない。舞いたければ舞いなよ」

新介が言葉を添える。いつの間にか信長の尻が僅かに浮いていた。

音が続く。”ポ”とも”タ”とも”チ”とも判別できぬ。まるで鼓から発した波が信長の肉体に浸透し、新介の指が直に信長の胸を触っているようであった。宙に開いた穴から死んだ父や吉乃に覗き見られているような気がした。身体から蓮が咲き乱れ、身体すべてが花びらになって吹き散らされていくような気がした。

「さあ、思うがままに」

新介が言葉を継いだ。

言われるまでもなく信長は跳ねるように立ち上がり、帯から抜いた白扇子を構えていた。

鼓の律動が速度を増した。

信長が即興の幸若舞を合わせた。

いつしか世界には信長と新介の二人だけ。いや、舞と音だけで満ち足りているように思えた。

疲れなど感じない。

何も考える事などない。

舞と音は夜明けまで止むことなく続き、信長が己を取り戻した時には新介の姿は消え、雨もやんでいた。

 

隣室にて。木下藤吉郎秀吉は一部始終を見届けていた。秀吉や鯰江又一郎の名が新介の口から洩れることを懸念しての覗き見だったが、事の成り行きは秀吉の想像を凌駕するものであった。信長が新介を気に入っていること、新介が秀吉にとって読み切れない男であること、はどうやら確からしい。

「堺の新ちゃん、ねえ」

小さな舌打ちをし、信長に気取られる前に秀吉も姿を消した。

秀吉と新介の邂逅はもう少し先のことである。

 

新介は蜂屋へ戻って女将のお蜜に甘えていた。

「新ちゃん、何かいいことあったんでしょう」

「ああ。美人の膝でやる朝寝は格別よ」

「あら残念。もうお店を開けるからこれで失礼させてもらいますよ」

スッとお蜜が身体の向きを変え、新介の頭が床に強打した。お蜜は構わず階下へ降りていく。

しばらく悶絶してみてから、新介はそのまま眠りについた。

薫り高い朝の陽ざしが銀髪を温めてくれる。今日も堺はいい一日になりそうだ。

 

 

 

 

※続編

短編小説「松山新介重治 一万貫の夢 1/5 松山新介 屋根を往く」 - 肝胆ブログ